5.30.2021

[film] Rare Beasts (2019)

5月26日、水曜日の晩、BFI Playerで見ました。 最近の英国映画なのだが、いくつかのレビューを読むと、“anti-romcom”とか書いてあって、なんか見た方がよい気がしたので見た。

女優のBillie Piperさんが一人で書いて主演した監督デビュー作。
TV制作会社に勤めるMandy (Billie Piper)がレストランでPete (Leo Bill)と恐らく最初のデートをするのが冒頭で、Peteはマッチ棒みたいな頭でもうじきハゲるのが見えてて眼鏡で声だけはでっかくて、べらべらべらべら尊大で自分が正しいと思っていてMandyのあれこれを決めつけてかかって、発言すべて女性蔑視満々で、全体としてとってもあんた誰? で(でもそこらにいそう。日本にはいっぱいいそう)、食事をしながら口論になって、喧嘩のように別れた直後に彼女は吐いてしまうくらい嫌な野郎だった。

で、ふつうであれば、こいつを最低基準線として、いちおうこいつに指摘されたことを正視して変わらなきゃとか思っていると、やがてそこそこの彼(or 雲の上のかんじのやつ)が現れて.. というのがふつうのromcomのパターンだと思うのだが、ここの場合はそっちに向かわない。 OCDの疑いのある男の子Larch (Toby Woolf)をもつシングルマザーで、仕事も恋愛も自分には後がなくて、自信もなくて、Peteの指摘した欠点に反発する握り拳も勢いもない彼女は、驚くべきことにPeteと付き合ってみようと思うの。

もうひとつ、家には老いてひとりタバコを吸ってばかりの母Marion (Kerry Fox)ともう別居しているもののやたらいい人として顔を出してくる - けれど経済的な支援は一切しないゴミのような父Vic (David Thewlis)がいて、この両親のようになってはいかん、というのもある。 理想に向かって走る季節は過ぎて、消去法で手元に残るなにかを積みつつ最悪を回避する、もうそういうアプローチしかないのだ、と。

こうしてLarchも連れてPateとデートを重ねたりしていくのだが、Peteは徹底的にやな奴なのでほうら、って事あるごとに上から乗っかってくるし、でもふつうにやられたらやり返せ、になるし、こんなふたりに未来はあるのか未来ってなんなのか。

この辺のリアルな認識 - もちろん、これがどれくらい今のUKの女性にとってリアルなのか知らずに書いているのだが - と、それに対するMandy - Billy Piperの全方位の怒りと苛立ちをどう受けとめるのか、そこを起点にしたPeteとのその後のぜんぜん前に進まない、相変わらず喧嘩まみれのどたばたは、人によっては見てて辛くて痛いだけのものかもしれない。 のだが、最後に全てがおじゃんになった後に「奇跡」が訪れる定番のromcomよりは普遍的なドラマとして機能しているように思えた。タイトルが「珍獣」であったとしても。

最近の近いドラマでいうと、やはり”Fleabag” (2016)だろうか。でもあのドラマにある笑いへの志向(こんなわたしを笑って)はなくて、すごく生真面目に、自分と周囲に小怒りをぶっつけながら錯誤迷走していく姿がよいの。やっぱりそんなの生々しすぎてちっとも見たくない、という人がいるのはわかる。

最後の雑踏(あれ、Alexandra Palace?)での告白シーンは、笑っちゃうような既定romcom路線へのパロディのようで、でもなんか悪くないかも。あの結末についてあれこれ語るのはやらない。いろいろ考えてしまうところもあると思うが、なんとなく強めに言い寄られていてこいつどうしようと思っている男を連れて一緒に見ると、いろいろ開けてよいのではないか(← やな目線)。

あと、結構いろんなひとのレビューが”Punch-Drunk Love” (2002)を引き合いにしているのだが、そうかなー。あの映画は結構romcomどまんなかだと思うんだけど。もう一回見てみないとー。

Tate Modernの前での子連れのデートシーン(散々の失敗におわる)、Tateの壁にChristian Marclayの”The Clock”の段幕が貼ってある。行ったなあ(泣)。

Johnny Lloyd and Nathan Coenによるサントラが素敵で、本人たちが語るようにHarry NilssonやJohn Brionの世界。それかThe Magnetic Fieldsとか。最後に流れるJohnny Lloydの“Next Episode Starts in 15 Seconds”(よいタイトル)がすばらしいの。


今日で自宅隔離は終わるらしい。ちっとも外に出たくないが、Uber Eats漬けから抜けられるのであればいいか。

エコバニの”Heaven Up Here”から40年経った、と。お茶の水のCISCOで、買おうかどうしようか1時間くらい悩んで棚の前で泣きそうになっていたあの時間からもう40年だというのか。もうしらん。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。