5.28.2021

[film] Archipelago (2010)

5月17日、月曜日の晩、BFI Playerで見ました(日本からもなんとか見れた)。

この日の昼にMoMAで”Quick Millions” (1931)を見て、いまはクラシックしか見たくないなー、と思ったその裏側で、でもそのうちどうせ奴らはやってくる、というのも当然のことながらわかっていて、いいかげん子供ではないので布団に包まってばかりというわけにもいかず、そうしたらBFIのSubscriptionに丁度見たかったのが入っていた。

Joanna Hoggが彼女のデビュー作 - ”Unrelated” (2007)から最新の(Part2はまだかの)”The Souvenir” (2019)までの間に撮った2本が。ここではまず2作目の”Archipelago”から。日本ではWOWOWで放映されたのみで、邦題は『家族の波紋』。

舞台は英国コーンウォールの先にあるシリー諸島(”Archipelago”は諸島とか多島海とか)にあるトレスコ島(すばらしい景観。行きたかったなあ)。 冒頭、風景画のような抽象画のような絵を描いている男Christopher (Christopher Baker)がいて、でも彼は登場人物であっても主人公ではない。

ここにEdward (Tom Hiddleston) がヘリで降りたって、母のPatricia (Kate Fahy) と姉のCynthia (Lydia Leonard)が出迎える。Edwardは銀行勤めの真面目な自慢の子だったのに突然辞めてアフリカにエイズ救済のための教育ボランティアプログラムに参加しようとしていて、その出発前の家族全員が揃っての休暇、になるはずだった。離れているらしい彼の父親にもPatriciaはここに来るように幾度も電話で説得しているのだが、Patriciaの声のトーンだと交渉は難航しているらしい(結局最後まで現れない)。

家族が滞在するフラットには、家族の他に雇われ料理人の若い女性 - Rose (Amy Lloyd)がいて、彼女がいることで和らぐなにかがあるような - 家族の久々のリユニオンなのにそういうテンションを感じさせてしまう何か/誰かがいたりあったりすることは、すぐわかる。PatriciaとCynthiaは、父親に続いてEdwardまで自分たちを捨てようとしているのだと思い、Edwardは自分の彼女を連れてくることもやんわり断られるし、自分の計画がふたりによって頓挫させられるのではないか、と疑っている。そして、PatriciaとCynthiaの間にも過去から積もってきたなにかがあるようだ。

もうひとり、家族の人ではないのが地元の画家の(実際に画家であるらしい)Christopherで、Patriciaの絵の先生である彼は、絵の描き方 - 風景の捉え方、心象や精神を画布にどう展開するか、などについて抽象的な私見を述べたりする。料理と絵画、がこの家族の空気抜きとなってその場と集いを保たせている。

画面は固定、クローズアップはほぼなく、自然光とも異なる独特な照明(すてき)の下で、部屋全体とそこで向かい合うそれぞれの言葉や思いを浮かびあがらせたり反響させたり。音楽はなくて風の音や海の音のみ。気晴らしに自転車に乗ったり屋外にピクニックに出てみても光のトーンも表情の浮かなさもあまり変わらなくて、Edwardが、Roseも入れて一緒に食事に行こう、という提案すらごにょごにょ反対意見がでて、それでも無理してみんなで出かけたレストランではCynthiaが爆発して大惨事になってしまう。

もちろん、この程度の修羅場なんてどこにでもあるし、映画はそういうのをずっと描いてきた、のかもだけど、ここのはロメールの教訓に向かう会話劇ともカサベテスの堂々たるとっちらかった修羅場とも違う、どこにも向かわずに潮の合間に点々とする群島のように、ただそこにある - そこにあった、と。 だからだいじょうぶ、とかそういうのではなくて、ただそこにあるものをChristopherの描く抽象/具象画のように浮かびあがらせてみること。それだけで、こんなにおもしろいドラマになってしまう不思議。

Joanna Hoggの長編デビュー作 - “Unrelated” (2007)も、タスカニーの田舎の一軒家にバカンスにやってきたやや疲れた女性と複数の家族の間で、起こるべくして起こった”Unrelated” - ほっといてよ - なごたごたを描いたものだった。ここでのTom Hiddlestonは無軌道なティーン役で、今作での彼の立場は主人公の女性のそれに近いものになっている(Roseを誘ってみたり)。でもどちらも、表出する亀裂の深さと修復不能なかんじは、同じような。

この翌日に次作の”Exibition” (2013)をみて、いろいろ思って、まだ転がしているのだがー。


週末になった(のね)。 でもまだ隔離期間なので外には出れない。外の世界はどんなんだろう? って白々しく思ってみたりするが、どうせだめだわ、ってため息しか。

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