5.06.2021

[film] La mort en ce jardin (1956)

4月15日、木曜日の晩、アメリカのMUBIで見ました。

Luis Bunuelの監督作で、英語題は”Death in the Garden”、邦題は『この庭に死す』。原作はJose-Andre Lacourの小説で、脚色には『地下鉄のザジ』のRaymond Queneauの名前があって、元はJean Genetも雇われていたとか。日本では劇場未公開で放映のみっだったらしい。今から見るとなかなか豪華なフランス人のキャストだし、きれいなイーストマンカラーだし、とってもお金が掛かっているふうで、でもこれもメキシコ時代のLuis Bunuel、なのね。

南米のどこか – たぶんメキシコの鉱山でそこを支配する軍と労働者が衝突するのが前半で、まるでGoyaのあの絵のように禍々しく混沌とした地獄図が展開されて、その混乱のなか、町のごろつきっぽいShark (Georges Marchal)と娼婦のDjin (Simone Signoret)と宣教師のLizardi (Michel Piccoli)と鉱山の労働者 Castin (Charles Vanel)とその聾唖の娘 (Michele Girardon)の5人が命からがら船で逃げ出してブラジルの方を目指すことにする。ここまでだと、途中でアナコンダが襲ってきてもおかしくないパニック冒険活劇ふう、に見える。

そのうち船がダメになり、船を捨ててジャングルに入り込んでからが更に地獄になって、ブラジルに向かうどころか、ジャングルの同じ地点をぐるぐる回っていることに気付いて、そこに飢えと湿気のびたびたが加わると、とにかくここから抜け出したい、自分らをこんなふうにした張本人はどこのどいつだ? って。

一触即発になりかけたところでジャングルに落下した飛行機の残骸から酒とか衣料とかいろんなものを見つけることができて、やや落ち着いたかに見えたのに、やっぱりどうにも満足することはできなくて。

人のあらゆる類型とか業とか欲とかを容赦なく横並びにしてほうら… っていうLuis Bunuelのパノラマ技は十分に冴えていて、冒頭の支配者 - 被支配者同士の諍いの図から離れたところにいて生き残った5人 - アウトロー、娼婦、坊主、老人、障害者 - ですらジャングルの自然状態に晒された途端に弱さ狡さ無力さなどなどをむき出しにしてそれぞれの立場から小競り合いを始めて、自然状態の残酷さや気色悪さを露呈していく。 というより、その気色悪さこそがヒトの世界 - 自然状態そのものなのだ、って。目をひんむいてようく見やがれ、って。

ジャングルはヒトの手が入っていない野生のなにか、としてあることは許されず、ヒトもまた歪められることのない野生状態をそのまま生きることは許されず、ジャングルにヒトが踏み入れた途端にそれは人為的なガーデンと化してしまう運命にある。ヒトというのはそこで、どうあがいても「ガーデン」でしか死ぬことができないような愚かで哀れな生き物なのだ - かわいそうにー、という世界とか生死のありよう。Bunuelの映画ってなにを描こうが常にそういうスケールで万象を測るべくジェットコースターのように自在に乱高下しながら、我々はだれで、どこにいるのか、を問うてくる。コンパスの針はぐるぐる回り続けて役にたちやしない。

なので、ここに悲惨な残酷な絵図を見ることはなくて、ああそういうものなのだ、って納得させられるしかない(これもまた地獄なの?)。どうしても嫌なら、関わりたくないのなら人間をやめるしかないのかも、とまで。 日々SNSとかであまりに酷いくそみたいなのばかり見せられているところでこういうのを見るとかえって清々しかったりする。

そして、こういうギリギリのドラマを生きるSimone SignoretもMichel Piccoliもなんと壮絶に生きていることだろうか、って。

おおむかし、『メキシコ時代のルイス・ブニュエル』っていう特集が千石の三百人劇場(もうない)、っていうところであってものすごーく衝撃と影響を受けたのだが、そこにこれを加えてもう一回俯瞰してみたいところ。


いよいよ滞在も残り少なくなってきて、送別会のようなものをやってくれるというのでここ数日、夕方になると出かけている。今の規則ではオープンエアの着席6人までなら飲食ができるようになっているので、オンライン飲み会ではなくこっちの方でやろう、と。 でもここ数日は異様に寒いし雨がぼたぼたくるし、お酒飲めないのでお茶をとってもあっというまに冷茶になってしまう。こうなるとあのバカバカしいオンラインの方がまだよかったかも。つまんない会話のときは好きなことやって遊んでいられたし。そんなことよりさすがにいいかげん荷物箱詰めをどうにかしないと。

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