10.01.2019

[film] The Goldfinch (2019)

9月27日、金曜日の晩、Leicester Squareのシネコンで見ました。
公開初日だったせいかすごくでっかいスクリーンで上映されて、でも夜遅かったせいかお客はぜんぜん入っていない。

2014年のピュリッツァー賞を受賞したDonna Tarttの同名小説(未読)の映画化。

冒頭、アムステルダムのホテルの一室で、すべてに絶望して死にそうになっているTheo (Ansel Elgort)の独白から、何がどうして彼はここでこうなってしまったのか。

まだ13歳のTheo (Oakes Fegley)は、美術館のテロで母親を失い、身寄りがないということでNew York Upper East(Park Aveの63rdだった)の裕福なBarbour家のアパートに引き取られて、同年のAndy (Ryan Foust)とママのSamantha (Nicole Kidman)に暖かく受け入れられてそのまま養子になるか、だったのに突然アル中でばくち好きでどこかに消えていた父親(Luke Wilson)とその愛人(Sarah Paulson)が現れてラスベガスの砂漠に引き摺っていかれる – すごいやだ、かわいそうすぎる。

もういっこ、Theoはテロにあった際に彼が持っていた指輪の刻印からヴィレッジ(Van Leeuwenのアイスクリームの看板がみえる)のアンティーク家具屋に導かれ、そこの共同経営者であるHobie (Jeffrey Wright)と彼が後見人となっているPippa (Ashleigh Cummings) - 彼女もまた.. - と出会い、彼らはその後のTheoの道行きに大きな影響を与える。

ベガスに行ったTheoはすべてを取り上げられた窮屈で苛酷な環境に置かれ、やはり父親がやくざなロシア系のBoris (Finn Wolfhard)と知り合い、酒やドラッグを教えてもらって親友になるものの、やっぱりあれこれ耐えられなくなって脱出してNYのTheoのところに身を寄せる。

時が経ってTheoはHobieの元でアンティークを学んで立派な青年になり、Samanthaの娘のKitsey (Willa Fitzgerald)と婚約するのだが、彼はPippaのことが忘れられなくて、そうしているとKitseyが別の男とキスしているところを目撃して、とっても動揺していると今度は大きくなったBoris (Aneurin Barnard)と再会して..

アムステルダムのTheoとそこに至るまでのTheoのお話の行き来のほかに、頻繁にフラッシュバックされるのが美術館(Metropolitan Museum of Art)での爆破テロの際、館内ではなにが起こったのか、Theoは何を見てどうしたのか、で、物語の起点となっているこの事件が、ぐるりと回って物語の終わりに再び彼に危機をもたらす – 彼自身にちっとも罪はないのに。 たぶんおそらく、原作の本ではこの辺がそれなりの整合感をもって緩やかな円を描いていくのだと思うが、映画だとちょっと弱くて脆すぎて2時間半使ってもー、だったかも。 なぜCarel Fabritiusの”The Goldfinch” (1654)なのか、この鳥が宗教画でキリストとよく一緒に描かれていることとか、いろんな意味も含めてじっくり解していくのはおもしろいと思うのだがそういうじりじりは読書の方が向いているよね。

絵画は他にも出てきて、レンブラントの『テュルプ博士の解剖学講義』も”The Goldfinch”もオランダのMauritshuisにあるやつなので、なんでそれがMETにあったのかしら? 過去にそういう企画展があったのかどうか調べたのだが、2013年にMauritshuisのいくつかがFrick Collectionに来ていたことはわかった(憶えてる。すんごい行列で入れなかった)。← いや、Fictionだからね。

他にはSamanthaがTheoに教えるJohn Singleton Copleyとか。

絵って(本も映画も家具もそうだけど)、それ自体が場所だけじゃなく時間も含めて思いもよらない旅をしていくもので、ヒトがどこでどうしたなんて関知しない、そういう旅 - ガラパゴスのダーウィンフィンチみたいな - の物語として見ることもできるかも。 絵に見入ってしまう、というのはそういう経験も込みでなのだ、といつも思う。

ふつうにTheoが大人になっていく話、でもぜんぜんよかったのにな。このキャストなら。

撮影はRoger Deakinsさんで、とても美しくて、最後に”The Goldfinch”の絵が大写しになるところ、あの筆のタッチは見れば見るほどすごいねえ、って。

子供の頃のTheoを演じたOakes Fegleyさんは、“Pete's Dragon” (2016)の彼だったのね。今回も親を失う役でかわいそうだったけど。 そしてAnsel Elgortさんは”The Fault in Our Stars” (2014)に続いてアムステルダムの運河で。


R.I.P. Jessye Norman.  90年代初にMetropolitan Operaで一度だけ見たことがある。”Ariadne auf Naxos” (1916) -『ナクソス島のアリアドネ』- だった。 人の声ってあんな滑らかな飴みたいに伸びるものなんだ、って驚嘆した。

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