10.08.2019

[film] Marriage Story (2019)

これも先に書いてしまおう。 6日、日曜日の晩、Embankment Garden Cinema (LFF用に毎年作られる特設映画館。椅子は落ち着かないけど画面がでっかいので好き)で見ました。
今回見にいっているLFFの作品たちはリバイバルとフランスのばかりで、映画祭!ぽい作品はほぼこれのみ。

メモを見ると、2017年の10月7日に”The Meyerowitz Stories (New and Selected)” (2017) をこのシアターで見ているので、丁度2年ぶりのNoah Baumbach作品、ということになる。

この作品は数日前、海の向こうでやっているNew York Film Festivalでもセンターピースとしてプレミア上映されたばかり(だいたいNYFFでプレミアされたのが数日遅れでLFFにくるの。あーあ、やっぱりあっちの方が…)だったのでゲストなんて誰も来ないだろうと思っていたら、”The Report” (2019)の紹介でAdam DriverがLondon入りしていることを知り、ふたを開けてみれば舞台挨拶には監督のNoah Baumbach以下、プロデューサーのDavid Heyman, Adam Driver, Laura Dern, Ray Liottaまで並んでいるのだった。
すごーい! Kylo RenとVice Admiral Holdoが! ってはしゃいでしまったのは自分だけではあるまい。

挨拶は初めに監督が、これは離婚のお話 - Spoilerでもなんでもなくストレートに離婚するとはどういうことかを描いたものです、と。 それを受けたプロデューサーは、スクリプトが十分にできあがっていたのでなんも言うことはなくぜんぶ監督に任せた、と、続く俳優陣もほぼそれに倣って、スクリプトと監督にすべてを委ねてただ幸せでした、って。

冒頭は、既に予告でも公開されているCharlie (Adam Driver)がNicole (Scarlett Johansson) のことを彼の語りで紹介し、NicoleがCharlieのことを彼女の語りで紹介する映像。これが互いのよいところを紙に書き出して声に出して読んでみましょう、という離婚カウンセラーによるセッションのアジェンダのひとつで、Nicoleはあたしそんなことできないから、と部屋を出て行ってしまうので、既に事態は取り返しのつかないところまで進行しているのだな、というのがわかる。

その語りによる紹介パートでは、女優をしているNicoleと舞台監督をしているCharlieのふたりと息子Henry (AzhyRobertson)のNYでの暮らしが描かれるのだが、これ以降は自身の撮影の仕事でHenryを連れてLAの実家に帰ってしまったNicoleの元をCharlieが訪れて裁判したりHenryと遊んだり、の日々を中心に進行していく。

映画のポスターにも出ているように、これはふたりの離婚をめぐる戦いであると同時にLAとNYの街のお話にもなっていて、LAで婚姻登録して、LAでHenryは生まれて、でも家族はずっとNYで暮らしてきて、でも今HenryはLAの学校に通ってNicoleの家族とふつうに暮らしている。 (前作の”The Meyerowitz Stories ...”ではこれと同様の背景画として世代間のギャップ、というのがあった気がする)

離婚訴訟はLAで起こされたのでCharlieにとっては完全にAwayの戦いで、Nicoleの雇った弁護士のNora (Laura Dern)は典型的なLAのばりばりやり手(笑っちゃうくらいはまっている)で、Charlieは初め穏健派の弁護士(Alan Alda)に任せるのだが歯が立たないので新たに武闘派のJay(Ray Liotta)を立てて、そうすると仁義もくそもない修羅場に突入していく。

という表面の争いとは別に、NicoleとCharlieがふたりで対面して会話をするとNicoleははじめ穏やかで涙ぐんだり感情を露わにしてくれたり、でもやがてそれは決まったように爆発して、もうじゅうぶんわかっているのにもうどうしようもないことが改めてわかる。  基本はふたりのそれぞれの弁護士とのやりとりがあり、Henryとのあれこれがあり、ふたりの間のやりとりがあり、そこをぐるぐる回っていって、そのどれもが埋めようのない溝を確認する作業ばかりになっていくのだが、その辺はとにかく映画を見てほしい。ほんとに細かいところまで拾って積みあげていくその繊細な手つきときたら。  

これまで“The Squid and the Whale” (2005)からずっと離婚する家庭、離婚した家庭、何かが壊れてしまった家庭の内や外との関わりを描いてきたNoah Baumbachだが、ここまで細かく一組のカップル、ひとつの家族の内側に寄り添ってじっくり掘っていったのは初めてではないか。 そしてこの物語を – ほぼその過程を描いているにも関わらず”Divorce Story”ではなく”Marriage Story”と呼ぶのは何故なのか?

息子を取りあう離婚劇、というと”Kramer vs. Kramer” (1979)が思い浮かぶが、あそこまでウェットではなくて、笑えるとこともいっぱいあって、特にCharlieのことを大好きでたまらないNicoleの家族とのやりとりとか。 対話を通して内側を緩やかに掘り下げていくところはベルイマンのそれに近いかも。

あとはAdam Driverのすばらしさ。ドラマの終わりの方、冒頭のNicoleがCharlieについて書いた文章をHenryが読もうとして(難しくて)読めなくて、それをCharlieが読みあげるシーンなんて、ほんとすごいから。

誰もが期待するであろうBlack WidowとKylo Renの身体を張ったバトルはない、けどLAとNYの間で歌合戦みたいのはあって、彼の歌、なかなか悪くないの。

音楽は前作に続いてRandy Newmanさまで、彼のここのところのサントラ仕事で聴かれるふっくらほんわかしたやつが多いのだが、場面によって70年代の彼の曲に顕著だったピアノと弦の絡みがむきだしで聴こえてきて泣きそうになる。あれはずるいわ。

Henry役のAzhy Robertsonくんは、“Juliet, Naked” (2018)ではEthan Hawkeの息子をやっていた。
“Juliet, Naked”、ほんとおもしろいのにな。

あと、やっぱりLAでは暮らせないな、とかいろいろ。

Netflixなので配信されるとは思うけど、シアターのでっかい画面の方がぜったいすごいのよ。

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