6.13.2022

[film] Voskhozhdeniye (1977)

6月7日、火曜日の晩、シネマヴェーラのウクライナ映画特集で見ました。

邦題は『処刑の丘』、英語題は”The Ascent” - 原題をそのまま訳すとこれ。監督はウクライナ人の女性-Larisa Shepitkoでこれが彼女の遺作となった。原作はVasil Bykaŭの小説 - ”Sotnikov” - 劇中の主人公の片割れの名前。77年のベルリン国際映画祭で金熊を受賞している。

Mark Cousins - 彼の映画いま日本でやってるんだ - のドキュメンタリー”Women Make Film: A New Road Movie Through Cinema” (2018)でもこの作品は言及されていた。”Point of View”と”Close Ups”というチャプターで。

第二次大戦中のベラルーシのまっしろな雪原、こんなところに人がいるのか、ていうとこに実はパルチザンの一連隊が埋もれながら進んでいて、そこで突然銃撃戦が始まって、静まって、長期戦になるかもしれないのでどこかから食糧を調達してこないといかん、って、Rybak(Vladimir Gostyukhin)とSotnikov(Boris Plotnikov)のふたりが志願して雪のなかに出ていくことになる。Sotnikovはずっと咳をしていて具合が悪そう。

雪だらけで凍てつく原野で、人がいそうな家屋の扉を叩いて食べ物をよこせ、って言っても向こうは既に敵(ドイツ兵)と繋がっているかも知れないし、繋がっていなくてもこちらに恨みをもっているかも知れないし、食べ物なんてないかも知れないし、すごく危うい危険なことだと思うのだが、そんなこと言っていられないくらい切羽詰まっていて、急いで帰らなければ自分たちもみんなも死んでしまう、のでふたりは必死で、そうやって羊を一匹貰って担いで戻ろうとしたところでまた銃撃に見まわれて、Sotnikovは足を撃たれてしまったらしい。

もう死を覚悟したかに見えたSotnikovをRybakは死なせないからな、って担いで(羊はどこかに消えてる)歩いていくと見えてきたのが、Demchikha (Lyudmila Polyakova)と3人の子供がいる家で、そこで手当をして食べ物を貰おうとしたら向こうからドイツ兵がやってきて、屋根裏に隠れると向こうも怯えて銃をぶちかまそうとしてきたので降伏して、Demchikhaも含めた3人はドイツ兵の詰所に連行されてしまう。

詰所では見るからに冷酷そうな調査官Portnov (Anatoli Solonitsyn)がSotnikovを尋問に来て彼の揺るがない目と態度を見るとそうかそれなら.. とあっさり拷問(胸に焼きごて)をする。でもSotnikovの目は既に殉教者のそれでそんな苦難を超越していて、他方でRybakの方は、知りたいことは教えるからって、結果として彼はドイツ側の秘密警察の仕事を貰えるかもしれないことになる。そんなRybakをじっと見つめるSotnikov。

結果としてSotnikovとDemchikhaと村長のおじいさんと靴屋の少女は翌朝に(ゴルゴダの)丘の上にある処刑台まで引き回されてみんなが見ているところで絞首刑にされて、それを横で見ていたRybakはやがて..

書いているだけで息苦しくなってくる、少しもほっとできる場面のない、ずっと凍えて感覚が失われていく雪のなかで、自分がしたり、他人に強いられたりの選択ひとつひとつが自然の摂理のように自らの命を浚いにやってくる。戦争/戦場というのはそういう過酷な場所で、アメリカ映画みたいに誰かが救いに来たり何かがなだれこんできたり、なんてあるわけないのだ、と言われればその通りなのだが、それにしても過酷すぎで、でも同時に、これをこういう形で映画にしなければならなかった監督の強い意志と切迫感はまちがいなく感じられて、それが彼女の命を削るほどのものだった、ということを知るとやはり見てよかった、と思った。

Sotnikovの覚悟と決意 - 同胞を売るくらいなら死んだ方がまし、もRybakの姿勢 - とにかく死んでしまったら終わりなのだからまず自分が生きられる道を選ぶ、もどちらがどう、って比べられるものではなくて - それを比較したり裁定できる目線のおめでたいこと - どちらにしても彼らの先には地獄しかない。そこから俯瞰でとらえられる首吊りの紐が用意されたなだらかな丘 - The Ascent。

そしていまのロシアとウクライナの間で起こっていることも、100mとか200mのレンジで切ってみれば同じような非道 - ただの殺し合いではないか、と想像がつく。想像するのだ、ってSotnikovのあの目はずっと語っていた。


戦争もひどいが気圧もひどすぎ。

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