6.10.2022

[film] Everything Everywhere All at Once (2022)

6月7日、火曜日の昼、A24のScreening Roomでみました。視聴ウィンドウはこの日の午前10時からの4時間のみ。しょうがない(なにが?)ので自分のPCとヘッドセットもって静かに消えて都内某スタバに籠るしかない。劇場公開されたらまた見るだろうしな、くらい。

監督はDaniel KwanとDaniel Scheinert の”DANIELS”。プロデューサーにはRusso兄弟の名前がある。
ストーリーの設定や成り立ちを説明したらそれはそのままネタばれになってしまう気がするのでよろしゅう。

ポスターでも予告でもMichelle Yeoh曼荼羅が展開されていて、ベースの世界は”Doctor Strange in the Multiverse of Madness” (2022)とおなじ、あれはマルチヴァースを貫いて勃発するSFホラー仕立てだったが、こっちはB級ぜんぶ乗せどたばた活劇になっている。全部で3パートからできてて、Part 1: Everything、Part 2: Everywhere、Part 3: All at Once - の全139分。

Evelyn (Michelle Yeoh)は中国系移民で夫のWaymond (Ke Huy Quan)とコインランドリーを経営していて、彼からは離婚を切り出されていて、ひとり娘のJoy (Stephanie Hsu)は恋人のBeckyを受け容れてほしいのにEvelynが逃げようとするのでうまくいっていないし、中国からやってきた父Gong Gong (James Hong)は車椅子でぼけはじめているし、IRS(国税庁)の監査にあたって膨大な領収書を前に陰険な査察官Deirdre Beaubeirdra (Jamie Lee Curtis)にぐいぐい詰められてどうしよう、ってなっていると..

普段は朗らかでへなへなのWaymondがなにかに乗っ取られたように突然きりっとなって、Evelyn覚醒せよ、って起源のアルファ・ヴァースから始まったマルチヴァースとかヴァースジャンプのこととか説明して、この世界でのEvelynは生まれた時からずっとだめだめの最低だけど、アルファのEvelynはすごい最強のエースで、でも更にとんでもなかったのは彼女の娘のJobu Tupakiで、期待を込めて育てていったらある時点でブチ切れて制御が効かなくなってしまった彼女はものすご勢いで暴走して周辺のヴァースを食いつぶして全宇宙をベーグル化する"everything bagel" – ベーグル屋の名前みたい - 計画を進めようとしている。

いきなりそんなこと言われてもEvelynには何が何だかわからなくて、なにをどうしろって言うのよ、なのだが向こうから勝手に乗り移られたり止むに止まれず集中したりしているうちにヴァースジャンプの仕方とか別ヴァースに偏在している自分 - 映画スターだったり歌手だったり鉄板焼きシェフだったりカンフーマスターだったりピザ屋だったり指がソーセージになっていたり石ころだったりいろいろ - やWaymond - 同様にいろんな彼がいる - のこと、Jobu Tupakiになって狂暴化してしまったJoyとかを見て、自分の使命はなんなのか、ベーグルの円の方に行って円を閉じようとしている娘を引き留めないと - って覚醒していくの。

基本はクリーニング屋でぼろぼろだった主婦のMichelle Yeohが世界を、宇宙を – everything - を救う、その背景をマルチヴァースのどこにでも - everywhere - なんでもありにして、B級カンフー映画の小刻みなリズムとしなやかに小爆発を繰り返す身体の動きのなかに描きだして、そのめくるめく曼荼羅のぐじゃぐじゃにくらくらしながらよくこんなの作ったものだな、って思った。これって当初はJackie Chanを想定していたらしいが、なんといってもMichelle Yeohがすさまじくかっこよくて素敵。そこだけでもあと3回は見てもいい。

かっこいいだけじゃなくて、妻として母として娘として、あるべきところにぜんぶ持っていってしまう。彼女がそれをやれてしまうことにまったく異論はないけど、そんな彼女ひとりに世界を救わせてしまう世界って、とか少しだけ。

でも構成上はものすごく刻んだみじん切りが高速のAll at Onceでやってくるので、せわしないこと落ち着きないこと果てしなくてやや疲れるかも。モチーフはStanley KubrickだったりMichel Gondryだったり、映画好きには楽しめるのかもだけど。もっと見たい!そこで切って飛ばさないで、チャンネル変えないで、が多すぎる。ストーリーが必要、ストーリーを作らなければ、っていうのはわかるけど。“Ratatouille” (2007)のアライグマ実写版 - “Raccacoonie”なんてふつうに最初から見たいし。

あとは、MCUのDr. Strangeの時にも思ったけど、マルチヴァースのありようを壊して壊滅の危機をもたらそうとするのって、必ず移民(Wandaは難民)だったり女性だったり、なのよね。「あらゆる拒絶、あらゆる失望がこの状態をもたらした」って、マイノリティが揺さぶりをかける宇宙の均衡 - なにをそんなに恐れているのか、そんなに可視化されないと嫌なのか。”Be Kind”とか”You are not unlovable”とか、誰が誰に向かっていうべき言葉なのかー。 などなど。

あと、中国の思想とかエキゾチシズムに寄りすぎなんじゃないの、とか。寄せたいのはわかるけど。
コインランドリーのぐるぐる、毎年巡ってくるTax Returnの既視感、ベーグルの輪っか、すべては円環のなかにあるの。

音楽はSon Lux。Son Lux + Mitski + David Byrneによる”This Is A Life”が美しいったら。  

こういうのって、世界のEverywhereでAll at Onceで公開されてほしいのに、なんでこの国だけ、いつもながら..


RIP Julee Cruise..  彼女がいたときのThe B-52'sのライブは、ほんとにぶっとんでいてすごかったの。
ありがとうございました。

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