6.11.2022

[film] O Ano da Morte de Ricardo Reis (2020)

6月5日、日曜日の昼、国立映画アーカイブの特集 -「EUフィルムデーズ2022」で見ました。

邦題は『リカルド・レイスの死の年』、英語題は”The Year of the Death of Ricardo Reis”。原作はジョゼ・サラマーゴの同名小説 (1983)。
IMDBを見ると同じ原作でTVシリーズの”1936 - O Ano da Morte de Ricardo Reis” (2022) - 3時間45分 - というのもあって、監督のJoão Botelho、Ricardo Reis役のChico Díaz、Fernando Pessoa役のLuís Lima Barretoなどはそのまま、どういう関係なのか - 映画で撮ったものを再構成、編集しなおしたものなのか - 見たい。

Fernando Pessoaが亡くなった1935年の終わり、16年間のブラジルへの亡命生活の後にポルトガル - リスボンに帰国した医師のRicardo Reis (Chico Díaz)がHotel Bragançaに滞在し、その後にアパートに移動して過ごした最後の8ヶ月間を描く。

言うまでもなくRicardo ReisはFernando Pessoaが生み出した「詩人」のキャラクターであり、映画にはFernando Pessoa (Luís Lima Barreto)も幽霊として登場してRicardo Reisと対話したりするので、これもマルチヴァース - もっとシンプルにはパラレルワールドもの、だと思うのだが、Pessoaからは70以上のキャラクターが分裂しているので、やはりこれはマルチヴァース的ななにか、と見てもよいのかも。

ただ、ここのマルチヴァース or パラレルワールド設定がリアルワールドになんらかの影響とか混乱とか作用をもたらしたり及ぼしたりするのかというとまったくそんなことはなく - ひとつ前の映画にならっていうと”Nothing Nowhere over 8 month of time”だろうか - Pessoaの幽霊がこの状態で出てこれるのはあと8ヶ月くらいとか言っているので、消えたらそのまま世界も薄っすらと消えてしまうのではないかと思われる、いつもモノクロの雨がざあざあ降って暗くのしかかってくる夜のリスボンがアイリスイン-アウトで浮かんでくるばかり、それは誰もが思い浮かべるリスボンの陽光や赤茶の屋根たちとはぜんぜんちがう。

そういうまるでノワールみたいなノワールのリスボンの夜、ほぼ篭ってばかりのホテルやアパートの部屋やロビーで、ホテルの部屋のメイドとして現れたLídia (Catarina Wallenstein)となんとなくの関係を続けるようになり、やや離れたところで見かけたMarcenda (Victoria Guerra)とはファム・ファタールのような絆を感じて視界の中の彼女を追うようになり、その合間のあんたいったいなにしにリスボンに還ってきたの? っていう時に現れるFernando Pessoaと会話をしたりする。

1936年のヨーロッパは、ムッソリーニのファシズムにヒトラーのナチズムにスペインの内戦にポルトガルにもサラザールによる新国家が来ていて、ポルトガルが王政から共和制に移行した時に何かを予感してブラジルに渡ったRicardo Reisが戻ってくるとPessoaが死んでいた、のか、Pessoaが死んだのでここに戻ってきたのか。どちらにしても世界はどうしようもない闇に覆われようとしていて、マルチヴァースだって歯がたつものではなかった。

原作は『ここに海終わり、陸地が始まる』で始まって『ここに海終わり陸地が待つ』で終わる。

そしてPessoaの別キャラのÁlvaro de Camposにはこんな一節があり、

砂漠は偉大であり、すべてが砂漠である。
人生は素晴らしいが、人生に価値はない。

Ricardo Reisの詩にはこんな一節もあって;

偉大になるには、全体であること - “To be great, be whole”

そしてこれは偉大なる砂漠ではなくて海のお話が終わるところから始まり、海は終わってしまったので向こう岸に逃げることはできなくて、その海が終わったところではずっと雨が降っていて暗くて.. という冗談みたいにしみったれたトホホのお話で、でもPessoa的にはだいたいそんなもんなのかも、ってとてもしっくりくる - きた。 終わってから色が変わったりするし。

これまでPessoaの本はずっと枕元に置いていたのに、気がついたら積まれた山のどこかに消えてなくなっていて、いくつか確かめたかったフレーズがあったので2時間くらいかけて山を崩したり掘ったりしてみたけどどこにも見つからない。いまの山の状態はかつてない規模でやばくひどくなっていることを改めて思いしったのだが、Pessoaだったらなんもしなかっただろうなー、って思ったのでなーんもしないことにした。

Fernando Pessoaを主人公にしたマルチヴァースもの、誰か - José Luis Guerínあたり? - 作らないかしら。”The Hours” (2002)みたいになるの。

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