6.26.2022

[film] 銀座の恋人たち (1961)

6月19日の午後、『春の夜の出来事』の後に神保町シアターの銀座・銀ぶら特集で見ました。
監督は千葉泰樹で脚本は井手俊郎。 英語題は”Lovers of Ginza”。

銀座の片隅に津川八重(東郷晴子)と民子(団令子)の母娘が経営する和風居酒屋「菊の家」とその隣に光夫(宝田明)と君江(原知佐子)の夫婦と君江の父親(有島一郎)の3人が経営する喫茶店「ヴォランシェ」があって、少し離れたところにある「大原洋装店」には民子の姉の由子(草笛光子)が嫁いでいて夫で若旦那の圭一(三橋達也)はふらふら遊び人で、そこの店員の弘子(北あけみ)と民子と君江は親友同士で、ある晩弘子が話したいことがあるというので3人で集まると、妻のいる男を好きになってしまった、と。その相手が由子の旦那であることがわかり、由子は三橋達也と離縁して居酒屋の方に戻ってくる。

登場人物たち - みんなスター顔できらきらしっとり - の位置関係や矢印の方角を把握するだけでも結構大変なのだが、銀座の3軒のお店とその周辺に点在する弘子のアパート、光夫と君江のアパート、八重や民子の実家(おばあちゃんは飯田蝶子)を舞台に、女性たちが誰を想ったり嫌になったり、いまの関係に絶望したりしているのか、結果として家を出て新たな生活を - 出られた側は新たな相手を探し始めて、など、玉突きのようにすんなり落ちたり流れたりしていって、そのスピード感というか思い切りのよさとか恋の止まんないかんじが「銀座の恋人たち」なのかもしれない。生活? なるようになるわよ、って。

三橋達也を奪って一緒に暮らし始めたと思ったら彼を養うためにキャバレーで働き始める弘子も、「ヴォランシェ」に現れる謎の女性(島崎雪子)や店のドアガールをやってて中絶したという浜美枝と宝田明の仲を疑って不安になり闇の世界の歌手ハリー米山(水原弘)の車に乗ってしまう君江も、宝田明をぼんやり想っていて求愛してきた中尾(小泉博)の件を保留にしているうちに姉に宝田明をとられてしまってぜんぶを失う民子も、それぞれにかわいそうで不幸に見えてしまうのかも知れないけど、そんなに辛そうには見えない。ほんとは辛いのかもだけどそんな暇はないのだ、のようにスクリーンの上ではすいすい動いていく。

おなじ恋人でも、おなじ銀座でも、同じ井手俊郎脚本、千葉泰樹監督による『東京の恋人』(1952) - 英語題は”Tokyo Sweetheart” - が「みんなの恋人」的な - みんなの、なのでどうにもならん - 原節子を真ん中に置いて描こうとした汎用的な - 誰もがが惚れてしまう主人公の女性とその反対にいて誰もが嫌いそうな欲深い森繁との対置で示そうとしたわかりやすい構図はここにはない。弘子のところに行く三橋達也も君江を連れ去る水原弘も、ひとり勝手に潰れてしまう宝田明も、ものすごく悪い暗い情念に導かれて動いているわけではないし、女性たちも都度動揺したり傷ついたりしながら次の恋に向かおうとしていて、その引き出しというか選択の幅のありようが銀座 - この映画の舞台になるお店とアパートで衣・食・住のぜんぶは網羅されてて、あとは恋だけ、そこに生きるだけ - なのだと思った。こんな街が東京の他のどこかにあったのだろうか?

全体として登場する男どもはどれもほぼしょうもないろくでなしのくずばっかしで、最後、全てを失った民子のところに現れるのがご飯のことしか考えていないわかりやすくシンプルな木下(加山雄三)- これはこれでこわい一日五食野郎 - で、彼と夜中の路地でバドミントン - 羽が生えててどこに飛んでいくのか知らん - を始めるところが素敵でー。

この40年早かったSATCみたいな内容のが100分で収まってしまっているのはすごいと思って、この世界の2年後、10年後くらいを続編で見たかったかも。加山雄三以外は全滅している世界とか。


Glastonbury 2022、BBCのiPlayerに繋いだら見れたのであとで見よう。現地で見たかったのにさあー。

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