1.04.2022

[film] The French Dispatch (2021)

12月24日の晩、Apple TVで見ました。装飾がクリスマスイブっぽいかと思って。どうせもう一回みるし(こればっかり)。

Wes Andersonの新作、ストーリーはWesに加えてRoman Coppola、Jason Schwartzmanなどが。
タイトルは雑誌の名前で、フルネームだと”The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun”といって、フランスの架空の小さな町 - Ennui-sur-Blaséで出版されていて、でもそもそもは編集長Arthur Howitzer, Jr. (Bill Murray)の父親が発行していたカンサスの地方新聞の日曜版のおまけ冊子 - ”Picnic”として出ていたもので - この辺の設定はいつものようにそういうもんなのだ、と受けとめるしかない。

更にこれも設定としてどうでもよいことかもだけど、雑誌New Yorkerの創刊当時 - Harold RossのもとでJames ThurberやE. B. WhiteやDorothy ParkerやJames BaldwinやA.J. Lieblingといった個性的なライターが好き勝手に書いていた当時のスタイルをモデルにしていて、更に映画では、編集長Arthur Howitzer, Jr. (Bill Murray)が亡くなって廃刊となるその最後の号の記事3本を元に - 記事そのものというよりライターが題材をFrench Dispatchの記事にするまでの格闘とかどたばたも込みで - 描いている。

最初のパートはNew Yorkerの記事でいうとアタマの"The Talk of the Town”よろしく自転車に乗ったHerbsaint Sazerac (Owen Wilson)がEnnui-sur-Blaséの町を案内してくれる。あの調子で快調にすっとばして、お決まりの大事故つきで。

以降の3つの記事 - “The Concrete Masterpiece” - “Revisions to a Manifesto” - “The Private Dining Room of the Police Commissioner” - は、それぞれジャーナリストのTilda Swinton、Frances McDormand、Jeffrey Wright が担当した時事題材をどんなふうに書いて料理して見せて(読ませて)くれるか、オールスターキャストでお楽しみください、としか言えない。いつものようにめちゃくちゃ楽しいから。エピローグとしてちょこんと掲載されるHowitzer, Jr.のObituaryまで、とてつもないスピードと軽妙さで一気に読める、じゃない見れる。

雑誌の編集 - ジャーナリズムという題材の取り方がこれまでの、例えば"The Royal Tenenbaums" (2001)とか”The Life Aquatic with Steve Zissou” (2004)とか”The Darjeeling Limited" (2007)とか"Moonrise Kingdom" (2012)といった(まあ全部の)作品の変てこ一族や一集団の冒険譚 - 一巻の書物のようなありよう - 趣きとはやや違っていて、編集者がいて、ライターが取材したものを練ってライターと編集者の目で編集してレイアウトして出版して、読者に届くとそれは町の片隅で何度も何度も繰り返しめくられて、反芻されて「世論」のようなものを形作ったりそこに影響を与えたりしていく。

そこにはWes Andersonが彼の映画の餌 - 構成要素としてきたものを数倍の濃さと強さでアンプリファイする仕立てと要素が満ちていて、牢獄に入れられた異端アーティストとか、五月革命の若者活動家とか、誘拐事件を担当する警察官兼シェフといった事件や素材をどう料理して我々の元に届けるのか、話しの転がりようとか、キャラクターの位置関係とか正義と悪と変態のコントラストとか、景色や色彩の配置とか、ノスタルジーのふりかけとか、要はぜんぶ乗っかっている。 彼があの時代のNew Yorkerの編集長になったら(なりたかったのではないか)例えばこんなふうにー、が彼のやり口で映像として徹底的に料理されてテーブルに並べられていて、こんなのおもしろくないわけがないの。

ここにはいつものように彼の組織 - この場合は雑誌編集部 - に対する、あるいはジャーナリズムに対する夢や理想、過去への追慕ももちろんあるのだが、その組み合わせ - 架空の町とか組織のありよう - アメリカ資本の編集部がフランスの小さな町をベースに雑誌を編む - その終わりまで含めてとにかく痛快で素敵ったらない。

New Yorker誌は表紙が好きなのでいまだに表紙だけで買ってしまったりする。エンドロールではそれっぽい架空の表紙を並べてくれたり、いまだに唯一無二の雑誌だなあってしみじみ思う。日本に帰ってきて、日本の雑誌ってなんであんなにつまんなくなっちゃったのかしら、って改めて。売れなくなったから、の悪循環なんだろうけど、だからといって酷いSNSとか、あんなのばかり眺めていたらあたま腐ると思うし。

あと、音楽はいつものAlexandre Desplat。タイプライターの音とか、どこまでもとっ散らかってかき回してくれて、すばらしい。

雑誌の編集部ネタが来たのであれば、そろそろ映画制作の現場、も出てきたりするのかしら。


お正月休みはおわり。詐欺みたいに短い。会社いやだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。