3.23.2020

[film] Toni Morrison: The Pieces I Am (2019)

平日のスーパーは22:00閉店を20:00時閉店に短縮して営業しているのだが、金曜日の18:00くらいに行っても見事になーんもなかった。BBCでナースの方が泣いている映像が繰り返し流されていて、仕事でへとへとになって帰りのスーパーがあれだとそうなるよね(これを受けて高齢者とかNHSで働く人達向けには特別対応がされている。まだ課題はあるみたいだが)。 土曜日の朝、近所のFarmers Marketは開いていて、でも係員の人が並ぶ場合でも距離を取るように指導していた。 やはり卵屋、鶏屋の前には長い行列ができてブツがどんどんなくなっていく。戦時中の配給とかこんなふうだったのかなあ。

土曜日の午後、Kensington Gardenにお散歩に行ったら、割とふつうの週末だった。犬とか飼っていると出ないわけにはいかないのだろうし。 ニュースを見ていると外には出歩かないように、という指示と篭ってばかりいないで少しは外の空気に触れたほうがいい、という勧め(?)が混在していて、どういうことかしら? と思っていたら今日になってガイドラインのようなものが出て、外に出る場合は他者との間隔を2mは空けるように(Social Distancing)、とか、人が群れているところにいかないように、とか、あとこれこれの持病をもつ人は絶対外出不可、とのこと。あと(日曜日は)母の日だけど、ママには会いに行っちゃだめ、って。 わかったよ。

でも日曜日はほんとうによい天気で、桜も咲き始めたので割と外にひとはいた。
公園では、今日(日曜)の午後に交通制限とかはじめたみたい。


14日、土曜日の晩、Curzon Bloomsburyのドキュメンタリーの小屋で見ました。
数週間前の監督とのQ&Aがあった回は全く取れず、この回もほぼ埋まっていた。

昨年8月、88歳で亡くなったToni Morrisonのドキュメンタリー。
既に死を意識していたのかどうか、本人がカメラの前に向かって静かに語っていく映像と、Ohioに生まれた時から家族のこと、等をアーカイブなどを使って紹介していく映像と、アカデミックの見地 - アフリカン・アメリカン文学史の観点から彼女の成し遂げてきたことを解説するコロンビア大学のFarah Griffinさんのガイドを中心に、スピリチュアルな角度から詩人のSonia Sanchezさん、コメントを述べていくのが、Angela Davis、Hilton Als、Russell Banks 、Random Houseでの同僚だったRobert Gottlieb、Oprah Winfrey、Fran Lebowitz、などなど。

作品として深く掘り下げられていくのが”The Bluest Eye” (1970), “Sula” (1973), “Beloved” (1987)、あとは彼女が編集に携わったアンソロジー”The Black Book” (1974)。それまでホワイトピープル(特に男性)の目線をフィルターして語られてきたアフリカン・アメリカンのキャラクターや物語の造形を、その縛りから解き放ち、登場人物個々の時間や痛みを見つめ、それを普遍的な形で遍在させる、それがどれだけアフリカン・アメリカンカルチャー、ブラックカルチャー、フェミズムの下地作りに貢献したか、そこからノーベル文学賞にまで至る大きな物語と、シングルマザーとして2人の子供を育てつつ編集者として働き、大学で教え、小説を書くというパーソナルヒストリーと上記のコメンテーターがそれぞれの立場から語るToni Morrisonと、いろんなPiecesがある - The Pieces I Am。

見ていて感じるのはPiecesのでっかい塊りとしか言いようのない圧倒的なポジティビティで、それも力こぶを入れた浪花節調のではなく、正面から堂々と淡々と受けとめて揺るがない強さ。 それがなんでそう感じられるのか、アフリカン・アメリカンの(田舎の、昔の、奴隷制の)物語なんて縁もゆかりもないもないはずの現代の日本人にどうしてああも生々しく届いて、わかってしまうのか、その驚異、その謎はやっぱりわからないのだが、例えばAretha Franklinのドキュメンタリーフィルム - ”Amazing Grace” (2018) を見るとこれと同様の感覚が襲ってくる。 自国外の映画を見たり絵画を見たり音楽を聴いたりする、それを止めることができない理由はこの辺にあるのだな、って改めて。

とにかくカメラ(の向こうの我々)を見据えて、ゆっくりと語る彼女の姿と言葉だけですごいの。
最後の言葉のあと、思わずぱちぱちしていた人がいたけど、それがよくわかるくらい、ああ、って。

コメントでは、”Beloved”を読んで興奮してToniの自宅に電話をしてしまった(どうやって電話番号を調べたか、映画みたいに痛快な)Oprah Winfreyさんと、なに喋っても落語のようにおもしろいFran Lebowitzさんが最高で。

彼女の小説を読んだことがなくてもだいじょうぶだし、読んだことがある人はぜったい再読したくなるのだが、翻訳本、日本に置いてきちゃったなー。

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