10.11.2018

[film] 寝ても覚めても (2018)

これも先に書く。昨晩にみたやつ。
10日から始まったLondon Film Festival (LFF)の、自分にとっては最初の一本。場所はICAで席は無指定だし、扱いがちょっと失礼なんじゃないの- だから監督も(NYFFには行っても)来てくれないんじゃん、とか思ったけど、見れるならとにかく見るよ。

LFFは2回めで、ちょうど旅に出る件があるしそのすぐ後に出張も入ったりして見れないのが沢山出てがっくりで、更に先行予約のタイミングを少しミスしたらSold Outだらけで、こういうのが重なったので昨年ほど熱狂していない。 暫く待てば(ものによっては1年くらいだけど)ふつうに公開されるものも多いことがわかったので、より早く見たい - 作った人の顔も見たい、のがなければ無理して取らなくてもよいのかな、って。

でもこれ -濱口竜介作品は別で、『万引き家族』なんかよかぜんぜん見たいし、黒沢清のよか見たいかも、ていうくらいにこの人の作品はいつも考えさせられることが多くて、断固ぜったいおもしろいんだから。(『ゾンからのメッセージ』もとっても見たい)

英語題は”Asako I & II”。  原作の小説は読んでいない。

朝子(唐田えりか)が大阪の国立国際美術館の牛腸 茂雄の展覧会で麦(東出昌大)と出会って、爆竹にやられるように一瞬で恋に落ちて、奇跡のようなバイク事故も含めて朝子にとっては夢のような時間を過ごすのだが、麦は突然消えてしまう。

そこから2年後に東京に移った朝子はコーヒーのポットを回収に入ったオフィスで亮平(東出昌大)と出会って、外見が同じだし大阪弁だしあなた麦よね?と問うのだがどうも別人のようで、その後にやはり牛腸 茂雄の展示で亮平と再会して、これは何かあると思ったし、亮平の方も彼女のことが気になって、結局ふたりは外の階段で恋に落ちるのだが、突然朝子のほうからごめん無理だと一方的に言われて連絡を絶たれ、腑に落ちない状態で彼女に会うために劇場に行くと、そこに311の地震がきて、歩いて帰宅する途中に亮平は朝子と再会して、彼女を抱きしめる。

そこから5年後、もう一緒に暮らしているふたりは東北の方でボランティア活動をしたりしていて、猫もいて、そこで朝子は大阪にいたときの友人春代と偶然出会って、彼女経由でモデルになった麦のことや麦の親戚の岡崎が寝たきりであることなどを知らされて心が揺れて、亮平にもそれを伝えるのだが彼は落ち着いていて、でもふたりで大阪に引っ越す直前、麦が現れて。

恋はひとを狂わせて走らせる。狂わせるのは相手のひとで、その相手が同じ外見のふたりに分裂するかなんかしてふたり現れたらどうなるか。外見は同じだからどっちも好きで、中味は当然ちがうけど、どっちもそれぞれに好きだとしたら、どっちかの手を握るしかない。

そして震災というのもひとを根本から変える。海も川もドラマチックにではないけど、そのうねりやしぶきがひとを変える。
たぶん猫だって。
その変化の幅がでっかくて他者から見えなかったりすると狂っている、ように見えるのだが、それを言うのは他者のほうで、自分は恋をしているだけでそうは思っていない。

牛腸 茂雄って、自分にとってはE. ゴッフマンやR.D.レインと同列で、あなたはどうしてあなたで、わたしはどうして..  要は”Self and Others” -  他者や集団のありようを写真の表面に置いていったひとで、その写真たちに媒介されるかのように麦と亮平と(そしておそらく自分と)出会った朝子はひとの外観がどんなふうに自身の存在を揺らすものなのかわかっていて、それは赦されるとか赦されないとか、そういうことではなくて、いたたまれない、どうしようもないものなのだ、と。

朝子にとってのいたたまれないなにかと、それをもろに横っ面にくらった亮平の(あたりまえの)なんだそれ、が衝突して爆発して疾走して止まらないふたりを遠くから捕えるショットがとてつもない。 歓喜と怒りと恐怖が渦を巻き、ちぎれた雲が放つまだらな光が白いシャツを照らす。(Cassavetesの”Love Streams” (1984)の走るシーンを思いだす)

恋愛とはそういうものだから、と言って割り切ってしまえば終わりのことを可能な限りきちきちと選り分けていって、分かりあえるところだめなところいたたまれないところどうしようもないところ、みたいな惨状や継ぎ接ぎをぜんぶぶちまけて繋いで、でも、好きです。と海に向かってつぶやくように言う。ハッピーエンドで終わるかどうかなんてどうとも思っていない究極の、怒涛の恋愛映画だと思った。

東出昌大と唐田えりかのケミストリーは、Bradley CooperとLady Gagaのよかすごいよ。 あのラストなんて。

あと、震災と東北のシーンはこの映画には必要な要素だと思ったけど、海外だとどう見られるのかしら、って。じゅるじゅるの焼き牡蠣とか雲丹とかがどんなにすごいか、とか仲本工事がどんなにすごいか、って。(客席はいっぱいでこっちの人達のが多かった)

英国では受けないのかなあ。同じ顔のが入れ替わったりすり替わったりしてびっくりじたばた、ていうドラマは好きみたいだけど、そういうのとは違うしねえ。

ユリイカの濱口竜介特集もこれを見るために取り寄せて、巻頭のインタビューがとにかくものすごくてあきれた。
寝ても覚めても映画のことばかり考えている人たちの対話のおそろしさ。

Asako IIIはHappy Hour IIにマージしてまた5時間くらいのにしてほしい。← すごく見たい。

まだ書きたいこといっぱいあった気がしたのにな…  という映画なの。

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