10.03.2012

[film] The Master (2012)

25日、火曜日の晩にEast Villageで見ました。
65mmという割と希少なフォーマットで撮影された作品で、マンハッタンでは3箇所のシアターで70mmプリントでの上映がされていて(先週時点)、そりゃ70mmで見るでしょ、ということでそれを見ました。

冒頭の青緑色に泡立つ海の描写で完全にやられる。 すばらしい肌理、デジタル上映だったらここはこう潰れちゃうだろう、みたいなのが素人にもわかるような見事な色立ち。 これだけで十分、でもあった。
カメラはCoppolaの"Tetro", "Twixt"(ヴァージニア)を撮ったMihai Malaimare Jr.(PTAと組むのは初めて)。 
フィルム上映で見た"Tetro"はすごくよかったので、"Twixt"もフィルムだったらもう少し印象が違うものになったのかもしれない。

Production Designは、前作の"There Will Be Blood"(2007)と同様、Terrence Malick組のJack Fiskさん。
でも今回は、前回の油井管大爆発のような大きなスペクタクルはない。
でも爆発寸前ぎりぎりのテンションがずっと続いて途切れない。ひたすらこわい。

Joaquin Phoenixが二次大戦からの帰還兵で、戦場にいたころから挙動が変で、カウンセリングに掛けられてもやっぱし変で、現像液とか洗剤とかコップに入れて真顔でごくごく飲んじゃうし、突然ぶちきれそうだから街でぜったい目を合わせたくないタイプの狂ったひとで、行き場を失った彼をPhilip Seymour Hoffmanのファミリーが(というかPSHが)受け入れる。

当初はサイエントロジーがモデルの、新興宗教が舞台のはなしと聞いていたので、JoaquinとPSHが"There Will Be Blood"のラストのような血みどろの惨劇になだれ込むのかと思っていた(だれもがそう思うだろう)が、違っていた。
40~50年代、戦後の混乱期に正気を失った男が"The Master"の懐に一瞬自身の居場所を見出す、あるいは師弟の、あるいは父子の絆にー。
ひょっとしたらそれは新興宗教ですらないのかもしれない、という微妙な場所で、同じ考えかた、同じ感じかたをするふたりの男が出会う。

戦後の歪みが道端に弾きだした魂をフィルムノワール的な光と闇の犯罪絵巻に落としこむのではなく、青緑の海、その泡立つ渦のなかに溶かしこもうとすること。
スピリチュアルな救いも癒しもありえなかった時代、誰もが迷える子羊だった時代に、人はどうやって生き延びようとしたのか。

"There Will Be Blood"は、足元を掘ることで懸命に生きようとした時代のお話しで、今度のはひたすら地面を這いつくばって転がっていくお話し。 そしてその横滑りの果てに、点と点は離れていくことになるの。

しかし、全体ががちがちにきつくて決して明るいトーンではないのに、見終わった後にほんのり優しいかんじが漂う。 それはなんなのか、かえって不気味だったりもする。

Joaquin Phoenix はこわいくらいすさまじい。 なで肩で、針金を埋めこまれて顔も歪んできしきしした姿勢で猿人のように歩いていく。 ひと目見て異様で、でも目を離すことができない。
留置場で暴れてじたばたしまくる彼をほぼワンショットで捉えたとこなんて、なんだあれ。
キャラクターとしては"Punch Drunk Love" (2002)のAdam Sandlerに近いかもしれない。 但し今回のは、"Love"のテイストからちと遠い。

突然、気がふれたように甘くドリーミィな50年代ポップスが流れるところも"Punch Drunk Love" に近いかも。あの映画で流れる"He Needs Me"とかよかったよねえ。

Jonny Greenwoodさんの音楽は、前回よりはよいのだが、これらのポップスに救われているかんじ。 このひとの音って、あんま映画音楽向きではないような気がするのだが。

あと、音楽よか、音の強さ、暴力的としか言いようのない音の鳴りは相変わらず。 いくら耳を塞いでも脳の奥まで追っかけてくる音。 どこでどうやって鳴らしているんだか。

Philip Seymour Hoffmanは、こないだ舞台でみた"Death of a Salesman"に続いてアメリカの父親で、それでよいのか?と少し思うものの、他の誰ができるとも思えない存在感の男を、Joaquinと同じような、でも別の獣として演じている。
彼が最後にしんみり歌う曲がまたねえ …

誰にでも勧められる問答無用の傑作、というのとはちがう。(いつものPTA作品がそうであるように)
でも、じわじわと滲みてきて独特の痺れをもたらす、という点では紛れもないPTA作品なの。

PTA、次のピンチョンが楽しみだなー。

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