7.30.2023

[film] PLASTIC (2023)

7月23日、日曜日の昼、”Houria”の後に移動してヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。

最近メジャーなのもマイナーなのもアニメもゴミもなんでも絶好調らしい邦画界は、ミニシアターに入っても大量の予告が流れてくるし、映画興行が当たるのはよいことなのかもしれないしよいものもあるにちがいないのだろうが、そのほとんどがつるっとしたアイドル顔の男女が子供みたいに泣いたり叫んだり歯を食いしばったり、コピーも紋切りでなにが楽しいのかぜんぜんわからないし、こんな有象無象のせいで洋画の配給が遅れたり流れて配信にされたりするのは本当にもう .. はいはい、「マーケット」なんてずううーっとこんなもん、なのよね。

なので、他に見るのいっぱいあるし邦画はいいや、だったのだがこれはなんかひょっとして、と気になって見てみたら当たった。 すばらしくど真ん中にくる青春音楽映画。

まずいきなり、鈴木慶一おじいさんがカメラに向かって70年代のエクスネ・ケディ(以下、エクスネ)のベルリン〜ロンドン〜ワイト島のライブを目撃した昔話を語り始める。これだけだとボケ老人がなんか喋りだしたぞ、に見えなくもない.. と身構えると、続けて小泉今日子さんがやはりこちらを向いておじいさん(彼女にとっては父)に連れられて見にいったロンドンでのライブのこと - 小さかったから人のお尻しか見えなかったわー - って。 モキュメンタリーにしてはなんか豪華ではないか、と。

この2人が主人公でもよかったのだがそうではなく、2018年の名古屋でエクスネを聴きながらごきげんに自転車で走っていくイブキ(小川あん)と上の祖父や母の影響で聴いてきたエクスネをひとり路上でかき鳴らしていたジュン(藤江琢磨)がぶつかるように(同じ曲きいてる!)ってすれ違って、ジュンがイブキの高校 - 校長がとよた真帆で小泉今日子の同窓生だって - に転校してきてから始まるふたりの4年間。

出会いの奇跡がきちんとあって、恋が始まって盛りあがって、だんだんにふたりは疲れて壊れてきて、それでもふたりは … って次の曲がキックされるのか盤がフリップされるのかその瞬間を、1974年に解散して2022年に再結成したバンドの音が、パチン! て。

天文部にいるイブキは、1974年にNASAが宇宙に向けて放った地球のことを記した円盤メッセージが向こうの誰かに届いて戻ってくるまでの数万年間のことが気になっているし、タイトルの”PLASTIC”については音楽で食べていけなくなったジュンが関わるプラスチックを分解する微生物を扱ううさんくさいベンチャーのとこで、一万年も残って朽ちないプラスチック、について語っていたりする。

それがどうした、じゃなくていまここでこうして聴いている音だって、目の前にいるあなただって、何万年という同じ時間の旅のなかにいるんだからさ、というのを音楽は - 特にグラムロックとかブギーのリズムや鳴りはくどくしつこく、のり巻きに巻きこみつつ、でもかっこよく教えてくれる。

この電撃の呪い - じゃない魔法は、コロナ程度じゃびくともしない。数万年に渡って円盤と共に旅を続けることになるのじゃ、って覚悟しておけ子供たちよ、って。

このめちゃくちゃロマンチックな、やや岡崎京子ふうのボーイミーツガールのストーリーを前に押し出すのに、誰もが知っている懐メロではなく、74年に鳴っていたはずの、でも誰も知らなくてはっきり新しいエクスネ・ケディのブギーをもってきたのは素敵。曲がすごくよい - と思うんだけどよくない? (やや自信ない)
これならこないだのクアトロ、行くんだったなー。

続編は、PLASTIC をも溶かしてしまった2023年の酷暑から始まる、とか。

ふたりが初めてキスをしたのは『サッド・バケーション』(2007)が上映されている映画館だった。映画見てるならちゃんと映画見なよ、って思うが、あれは変に人恋しくなるやつだからなー、って。 で、この後に国立映画アーカイブで見た『EUREKA』 (2001) のニュープリントは、ブラックホールみたいなやつなのだった。

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