7.06.2023

[film] The Novelist's Film (2022)

7月1日、土曜日の午前、シネマカリテで見ました。
邦題は『小説家の映画』。 原題は”소설가의 영화”。2022年のベルリン映画祭で銀熊を受賞している。原作、脚本、監督、編集、撮影、音楽までホン・サンス。主演のひとりKim Min-heeがプロダクション・マネージャーも兼ね、このふたり以外だと録音だけ別の人で、スタッフは計3人。

ぜんぶモノクロ? かと思うと(予告を見たらわかるように)カラーになるところがある。

「こどもが映画をつくるとき」ではない「おとなが映画をつくるとき」の映画かも。

『あなたの顔の前で』(2021) - 見たのは丁度1年くらい前か - での女優役がすばらしかったLee Hye-yeongが書けなくなった小説家ジュニとして出てくる。冒頭、並べられた本を触るような触らないようなの手が映されて、小さな書店 - 新刊も古書もあってカフェもついている – の書店主で彼女自身も作家だったらしい友人(Seo Young-hwa)を訪ねて、近況をやりとりして若い店員と話して、別れたところで旧知の映画監督 (Kwon Hae-hyo)とその妻(Lee Eun-mi)と再会し、コーヒーを飲みながらやはり最近の話をする。

その会話のなかで、彼女が最近は書いていない、と言うと、映画監督が軽い調子で「もったいない」と言い、その「もったいない」というのはいったいどういうことか? って彼女が静かに怒るところがとてもよいの。(すばらしい怒りかた。そしていつもようにぼこぼこにされるKwon Hae-hyo…)

そこから公園を散歩していた女優ギルス(Kim Min-hee)と出会って - 高所から映画監督の望遠レンズを見せてもらうシーンがあるのだが、そこでズームされていた小さな歩行者って彼女じゃなかった? - 今は撮影の現場からは離れているというギルスとトッポギ屋でお茶して話をして仲良くなって、突然(でもおそらくずっと考えていた)ジュニは映画を撮れないかしら?と言いだして、女優の夫の甥で映画学校にいるという青年にカメラを持たせてまずは短編を作ってみたい、と。彼女たち夫婦に出てほしい、というので、ギルスは帰ってから夫に聞いてみないと、といい、そこからギルスは彼女の知り合いの詩人と会うので来ませんか、ってジュニを誘って、行ってみるとそこは冒頭に出てきた書店のカフェで、ギルスの知り合いはジュニの知り合いでもあり、そこでみんなでマッコリとかを呑みながら、いろんな話をしていく(いつもの)。

ただ今回は酒を呑みながら更に別の場所に行ったり口説いて転がったり関係が壊れたり、ということはなくて、作家として、女優として活動するというのはどういうことか、それをやめるのか休むのか(それもまた外野はあれこれ言うけど)どういうことか、などについて自分の思うところも含めてとりとめなく語っていくばかり。そういう語りのおおもとにあるのはこんなふうな人と人の出会いで、今回は5回くらい場所が変わって、そのたびに別々の「あなた」に向かって交わされて受けとめられる言葉たちはどれもなんでもないようで、その入ってくる、浸みてくるかんじの滑らかで気持ちよいことったらないかも。みんながそれぞれに語るのは、自分たちのそれぞれの事情についてばかりで、ふつうそんなの語っていれば、でしかないのに。

そういえば『あなたの顔の前で』は、女優をやめていたLee Hye-yeongが明日あなたの短編映画を撮らせてもらえないか、って映画監督のKwon Hae-hyoに請われるやつではなかったか、とか。

ホン・サンスの映画に登場する俳優の演技について、これまであまりそんなに意識したことってなかったのだが、今回のに関してはLee Hye-yeongとKim Min-hee、ものすごく、とてつもなくうまいんだな、って思い知った。あたりまえよ、なのかもだろうが。とにかくすばらしい女性映画なのよ。

最後に上映される映画の抜粋を見て、それを見終わって出てきたギルスの姿を見て、そういうことかー、というよりもなによりも、なんというか、びっくりした。全員そんなに酔っぱらわず、踏み外すようなこともそんななかったのはそういうことなの?(いや、わかんない。そうじゃないかもだけど)

映画監督の映画、なんじゃないのか? って。 できればもう一回みたい。

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