3.24.2022

[film] Verdens verste menneske (2021)

3月18日の金曜日、米国のYouTubeで見ました。
前日にワクチン接種して、副反応に備えて会社を休んでいたのだがぜんぜん来なくてなんかつまんなかった時に。

英語題は“The Worst Person in the World”。邦題は『わたしは最悪。』?? “The Worst Person in the World”って、たしかナレーション(女性)か相手の男性かが言ったことで、主人公の彼女は言わなかったし、そんなことを言うキャラクターではないし、この映画は少なくとも「わたし」が言うようなことを扱っていないのだが.. (ここに「わたし」を持ってこようとするのがすごく嫌)。

監督Joachim Trierによる「オスロ三部作」の最後の一篇(最初のふたつは未見)で、主演のRenate Reinsveは昨年のカンヌで最優秀女優賞を受賞している。プロローグとエピローグ、その間にタイトル付きの12 Chapterが挟まっている。 Dark rom-comとか言われているが、これがダークなら世の中のロマンスぜんぶ真っ黒ではないか、というくらい好き。Rom-comというよりはかっこいい女性映画だと思った。

プロローグで、オスロの医学生だったJulie (Renate Reinsve)は、医学じゃなくて心理学やりたいな、って学部を変えて、そこからこんどは写真やりたいな、ってカメラを持つようになって、その度につきあう彼も変わって、そうやって年上のグラフィックノベル作家のAksel (Anders Danielsen Lie) - 政治とエロ混じりのボブキャットのカートゥーンを描く - と出会って、今度は本屋に勤めて、Akselとつき合いつつなんとなく一緒に暮らしはじめるところから。

JulieはAkselの実家に行って彼の家族の修羅場を見たりするとやっぱりまだ子供を作るのは早いかもとか思って、自分でフェミニズムっぽい文章を書き始めたりするのと、通りすがりに飛び込んでみたパーティで出会ったEivind (Herbert Nordrum)と酔っぱらいながらこれって浮気? とか、これはよくないこと?とか、互いを問いつめながら遊んだりして、Eivindとはそれっきり..  のはずだったのに、本屋で再会して、だんだん高慢でうざくなってきたAkselへの失望もあって、思いきって飛びだしてEivindのところにいく - ここで全世界がフリーズする。

Eivindには付きあっている彼女がいたし、Akselへの未練も少しだけあった(別れを告げたあとでセックスする)のだが、Eivindと暮らしてみると楽しくて、マジックマッシュルームをきめて遊んだり - Julieの嫌悪するあれこれがぜんぶ戯画化されて放出される - 楽しいからいいや、ってふらふらしていたら妊娠していることがわかり、更にAkselが末期ガンでもう長くないことを知らされて..

“The Worst”ってなんなのか? 自分のやりたいことやって好きだと思うひとと一緒になって、それよか素敵なひとが現れたらそっちに行って酷い思いをさせて、それは「幸せ」を求めるからというより、そうやりたいからやっているのになんで、なにが悪いのか? (Agnesの“Le Bonheur” (1965)を思い浮かべる)

仕事/一生の仕事、性差、年齢差/同年代、家族/結婚、快楽/不快、酔い、好き/嫌い、これらを巡ってこうあるべき、とか、みんなこうしてる、とか、こうしたら、とか、そんなのぜんぶうるせえよ、って。そういうのをぜんぶやり散らかしても、そういうのをぜんぶ受け容れてくれるひとがよい(げろげろ)、とかそういうのとも違うの。 むしろJulieは彼(whoever)がこうした方がいいよ、ってアドバイスしたりやんわり求めてきたりしてきそうなことの全部逆を(わざとではなく)やろうとしているかに見える。それって果たして”The Worst”なの?

そして、”The Worst Person”って誰なのか? 誰もがあのポスターの、輝かしい笑顔でこちらに走ってくる彼女のことだ、とふつうに思ってしまうのだろうが、ほんとうにそうだろうか? “The Worst Woman”だったらそうだろうけど、ポスターには出てこないあんまぱっとしない男子2名もいるのよ。

そしてそして、”in the World”ってどこの/なにが含有された、どういうワールドなのか、ってことよ。このワールドが既にじゅうぶん腐れててWorstだったとしたら、ここの”The Worst”は”The Best !”になったりしないかな?  で、この映画はこれらの価値のありようやそんな位置関係を周到に並べて御丁寧になにかを蹴っ飛ばそうとしているのだと思った。 で、そうしてみるとやっぱしあの邦題は「最悪」だよね、っておもう。

主演のRenate Reinsveさんの挙動 - こういうのにありがちな不思議ちゃんや近寄りがたいファム・ファタールといった類型に割り振るのではなく、きらきら笑いながら70年代Woody Allenふうの自己憐憫にまみれた男たちを蹴っ飛ばしたり、最近のだとHong Sang-sooの映画に出てくる女性たちを北欧風にリビルドアップしているような - かんじはすばらしい、しかない。

映画自体が12曲のアルバムのように構成されていると思うのだが、流れている音楽もすごくよくて、最近のとクラシック - Billie Holiday, Todd Rundgren, Harry Nilson - 2曲も !、ラストにArt Garfunkelの”Waters Of March” !!  が交互に絶妙に配置されている。サントラのアルバム、出たら買う。

5月にMUBIに来たらまたみたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。