3.04.2022

[film] The Duke (2020)

2月25日、金曜日の晩、109シネマズの二子玉川で見ました。英国と公開タイミングがおなじなのね。
昨年9月に亡くなったRoger Michellの最後の長編ドラマ。邦題は『ゴヤの名画と優しい泥棒』。ゴヤはあんま関係ないしそんな名画とも思えないのだが。敵は絵に描かれたThe Duke - 初代ウェリントン公爵 (1769-1852)の方ね。

冒頭、60歳のKempton Bunton (Jim Broadbent)がロンドンのOld Baileyの法廷にいて、ゴヤの“The Portrait of the Duke of Wellington” (1812-14)とその額縁を盗んだ罪に問われたのに当ったり前の顔で「無実」と返してざわざわ ..  ここから約6ヶ月前 – 1961年春のNewcastleに舞台が移る。

KemptonはBBCに自分の書いた台本を送ったり、年金生活者にTVライセンス料を払わせることに反対して騒ぎを起こして少し刑務所に入っていたり、ロビン・フッドを自称するそんな彼を妻のDorothy (Helen Mirren)や息子のJackie (Fionn Whitehead)はしょうもないひと、って目で見ている。夫妻は娘のMarionを彼女が18歳のときに事故で失っていて、長男のKenny (Jack Bandeira)はリーズで日雇いのような仕事をしていて家を出ている。

タクシー運転手の職はクビになり、続いてのパン屋バイトもクビになり、でも脚本家になる夢もあるしTVライセンス料反対キャンペーンを世に知らしめるためにちょっとロンドンに遠出してくる、って出かけてみるのだが、結果はしょんぼりで、そうするとNational Galleryが高額で購入してTVで話題になっていたゴヤの絵 - そんだけの金があるなら年金生活者や戦争未亡人のために使うべきだろ! - って思い出して.. 次は誰かが絵をかっぱらってKemptonとJackieが絵を箪笥の裏にごそごそ隠しているシーン。(絵が持ち去られたら後にムンクの「叫び」が出てくるのはバカバカしいけどすてき)

絵の盗難は当然大ニュース - 捜査当局は国際犯罪組織がとか驚異的な身体能力の持ち主がとかいう - になって、Kemptonは高齢者のテレビ受信料を免除することを条件に絵を返してやる、って政府に身代金請求を何通も送りつけるがうまく命中してくれなくて、そのうちKennyの彼女のPammy (Charlotte Spencer)に箪笥の裏に隠された絵を発見されて懸賞金の取引を持ち掛けられたKemptonはこりゃやばいぞ、ってパニックを起こして絵を持ってロンドンに返しに行ったらあったりまえに捕まって..

ここから冒頭の法廷に戻って、飄々とした弁護士のHutchinson (Matthew Goode)がどんなふうに弁論して陪審員に訴えたのか、とか、がつい拳を握ってしまうくらいにおもしろい - そりゃそうかも - そうだな - って納得してしまうの。 Matthew Goodeが出てきたところで、あ、こりゃ勝つな、って思っちゃうのだが。

信念を持っているけど空砲ばっかしで、でもどこか憎めないそこらにいそうなお爺さんのKemptonと、自分は家政婦として働きながらそんな夫にうんざり苛立ったりはらはらしたりかわいそうなお婆さんのDorothyと、ふたりの間でなんとかうまく立ち回りたい良い息子のJackieと、みんなの後ろで静かに眠って見守るMarionの家族がとてつもない犯罪に巻き込まれて - 自分が引き起こしといて巻き込まれたって全員がいう - でもものすごい曲芸でなんとかなってしまった、という人情犯罪喜劇で、あーこれこそ英国のイーリングスタジオの伝統に繋がるコメディだわ、って。

全体としてパディントンを見ているときの感覚に近いのがくるのだが、これが実話だっていうところがたまんない。

いろんな崖っぷちや娘の死をひっかぶって抱えて、ぶつぶつ言い合いながらそれでもどうにか横に並んで手を繋ごうとするJim BroadbentとHelen Mirrenのふたりの絵がほんとうによくて、とにかくこのふたりだよねえ、って思った。 Helen Mirrenにはもうひとりハゲの息子(娘も..)がいて、そいつはガチの盗賊で、Fast & Furiousとかでぶっとばしているらしいが。

この映画の裁判から40年後、高齢者のTVライセンスは無料になったそうだが、向こうに暮らしていた頃は当然請求がきて、結構しつこくてなんだよ、ってなったことを思い出す。最後に支払ったときで年間157.50ポンドだった。でもこれでBBCがぜんぶ視聴できるのなら安いもん - いまの腐れたNHKに払うのよか10000倍ましだし、払うからこっちでも見せてよ、って思うわ。

Roger Michellさんの最後の作品はドキュメンタリー “Elizabeth: A Portrait in Part(s)”で、UKでは6月に公開 - 女王のPlatinum Jubileeに合わせたものよね。早く見たい。
 

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