3.20.2022

[film] Cenzorka (2021)

3月9日、水曜日の晩、MoMAのドキュメンタリー映画祭 - Doc Fortnight 2022 の配信で見ました。
ほんとうはここでJames Benningの”The United States of America” (2021) を見たかったのだが、配信なのにSold Outしていたのでー。 英語題は”107 Mothers”。

同年のヴェネツィアでオリゾンティ部門の最優秀脚本賞を受賞してスロヴァキアからオスカーにエントリーされた(ノミネートはされず)作品。監督はPeter Kerekes。舞台はウクライナで言語もウクライナの映画でもある。
タイトルをそのまま訳すと「検閲」となるが、英語題の”107 Mothers”は実際の女性囚人の母たち107人にインタビューした結果に基づいて構成されたもの、なのだそう。

ウクライナ - オデッサの74番(.. 何番まであるんだ?)刑務所に収容された女性/女囚たちのドラマで、ドキュメンタリーだと思っていたのだが、一部を俳優さんが演じている。

冒頭、囚人服(おそらく)に身を包んだ身重の女性たちの身体検査のやりとりがあってからヒトの出産場面が正面から映されて、そうやって出てきた赤子はしばらくの間別室で育てられて授乳の時間だけ母子は一緒になることができる。 更に刑務所に子供を置いておけるのは生後3つになるまでで、それを過ぎると孤児院に送られるか里親のところに出されるかで、受刑者の母親が恩赦等を受けて3年以内に出所することができれば子供と引き離されることはない、という説明がなされる。なんかディストピアのゲームのようだがそういう規則になっている、と。

実際の受刑者たちの映像に混じってメインで出てくるのが7年の刑期で入っているLeysa (Maryna Klimova)とここで生まれた彼女の子供(かわいい)、でっかい猫のような看守のIryna (Iryna Kiryazeva)で、彼女は女囚たちの日常をずっと監視して、彼女たちが受け取る手紙、彼女たちが投函する手紙をぜんぶ機械的に検閲したりしている。

Leysa に子供が産まれた後、刑務所のルーティンを紹介するかたちでチーム単位で並んでまとめて授乳する様子とか、なんでここに入ることになったのかの個々の問答 - 嫉妬、とか、夫を殺した、とか、夫の愛人を殺した、とかみんなさらっと語っている。 そしてそこから3年後に飛ぶ - 実際に3年間置いて撮ったのだろうか?

3年経ったので、子供の誕生日にケーキでお祝いをして、そこからそのまま引き剥がしてばいばい - のような残酷な画が展開されて、Leysaも産んでからもうじき3年なのでいろいろ焦っている。刑期中に改善が見られたかどうかのインタビュー - 恩赦に繋がる可能性がある - とか、手紙を書いて反省のアピールをしたりとか、実親に電話して暫く子供を見てもらえないか頼んだり - 母親からひどい返事が返される - おそらくここにいる誰もがやっていることなのだろうが、胸が痛くなる。 そしてその様子を隅っこでもう見飽きた、みたいな無表情で眺めているIrynaがいる。

この後の展開は見てもらうとして、とにかくこんなの、男性の囚人房ではまったくないことだろうし、生まれてきた子供からすれば更にまったく関係ないことだし、全体としては余りに不条理な酷い話ではないだろうか。 学芸会の様子とかみんなで楽しく騒ぐ場面もあったりするけど、余興があるから許されるようなものでは勿論ない。

彼女達が収監された理由と刑務所内で出産しなければならなくなった事情は直接間接に繋がっている可能性が十分考えられるし、出産したことで受刑者自身が(直面した苦労も含めて)変わった可能性だってあるし、ここには男性受刑者と比べるとものすごくでっかい非対称性があると思われ - だから映画の女囚もののジャンルもありうるのだろうが - ドキュメンタリーとしてまずフォーカスすべきなのはここなんじゃないのか、とか。そしてこれって、いまの戦争前から問題だったウクライナの人権問題ともリンクしているのかいないのか。

あとは107人分の声を集めたことで(意図しないかたちで)薄められたり端折られたりしたものがどれくらいあったのかしら? メインのエピソードが割とシンプルに口当たりよく纏まっているぶん、少し気になったり。

あともちろん、ウクライナがあんなことになっている今、彼女たちや子供たちはだいじょうぶだろうか。どうかみんな無事でありますように。

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