12.04.2023

[film] The Story of Temple Drake (1933)

11月25日、土曜日の夕方、シネマヴェーラの『文学と映画』特集で見ました。  

邦題は『暴風の処女』...  こういう古い映画の邦題って、昔は昔の土壌や呼び込み目的の勢いで付けちゃったのもあると思うのだが、いまの世に照らして明らかに変なのって、直していった方がよいのでは? 本当にその映画が好きならそこはわかってくれると思うし、それでも文句言ってくるのがいたら、あんた誰? だよね。

原作はWilliam Faulknerの小説”Sanctuary” (1931) – こんな話だったっけ? - 1961年にはTony Richardsonが小説のタイトルで再映画化している(未見)。

ヘイズコード施行のきっかけのひとつにもなったプレ・コード映画で、監督はStephen Roberts。プレ・コードのって今見ると微笑ましいものあったりするのだが、これはちょっと.. かも。

ミシシッピの田舎に暮らすTemple Drake (Miriam Hopkins)は祖父が判事で弁護士の恋人Stephen (William Gargan)から婚約を申し込まれてもやなこった、っていっぱいいる遊び仲間のToddy (William Collier Jr.)と酒場で呑んでぐでんぐでんになった帰り道、酔っ払い運転で衝突事故を起こし、Toddyは怪我で動けなくなり、その近くの酒場のLee (Irving Pichel)とすごく悪そうなギャングのTrigger (Jack La Rue)に捕まって囚われて、TempleはLeeの妻と若者に監視され、翌朝にTriggerは若者をあっさり殺してTempleをレイプすると町の売春宿に連れて行って隠してしまう。

そのうちLeeが若者の殺害容疑で捕まって裁判にかけられるが、Triggerの報復が怖くて彼の仕業だとは言えなくて、その弁護にあたったStephenがLeeの妻からTempleの居場所を聞いて現地に向かうと…

ものすごく陰惨な、アメリカの田舎の怖くてやばくて踏み入れたくない沼のようなところが全部みっしり詰まっているやつで、そういうのから離れたところにいたかっちりした家のお嬢さんが少し羽目を外したらあんなふうに転げ落ちて引き摺りこまれてあーあ、っていう。最後の裁判のシーンでも、やはり関係者全員が暴力にすくんでしまってどうすることもできず、Templeひとりががんばるもののばったりしてしまう。すべての悪も闇も地続きで逃げ場のないSanctuaryの恐ろしさ – Faulknerだねえ。


Sabotage (1936)

11月28日、火曜日の晩、シネマヴェーラの同じ特集で見ました。

邦題は『サボタージュ』、英国映画でアメリカでの公開タイトルは“The Woman Alone”。監督はAlfred Hitchcockで、原作はJoseph Conradの小説“The Secret Agent” (1907) -『密偵』。Hitchcockは同じ1936年に“The Secret Agent”というタイトルの作品も出していて、こちらの原作はW. Somerset Maugham だと – ややこしい。

ロンドンで、Karl Verloc (Oscar Homolka)の経営する映画館 – だけじゃなく広域 - で停電が起こって、客との間で金返せ返さないの騒ぎになって彼の妻(Sylvia Sidney)が対応している陰でVerlocはこっそり裏口から帰ってきてなんか怪しくて、彼は翌日にも怪しげな連中と会って、今度は停電なんかじゃなくもっとでっかい「花火」を打ちあげるのだ、って次のテロを指示されて、そんな彼をスコットランドヤードのTed Spencer (John Loder)が隣の八百屋の店員となって監視していて、Verlocの協力者は彼の家族内にもいるのかいないのかを探っている。

初めから犯人の顔も名前も割れていて、起こりうる破壊工作の内容も分かっている中、それを実行するのは怪しまれている自分ではないことを監視・追跡している側に示すために犯人が取った非道な手とは。 まさかね… まさか… って油断していたらそれがまんまとその通り - ではない巻き添え多数で起こって騒然・愕然とする中、まさかあなたが… って、導火線に火がついたように次の殺人と鼠取りと爆発が連鎖して、それにしてもあれでよかったのか? いやよくない、なぜなら..  という地続きの気持ち悪さが残る。

誰かが誰かを貶めたり暴きたてようとするその企みや試みは、必ず別の第三者の思惑によって妨害されたり壊されたりしつつも、でもどっちにしたって落ちるのだ、という小物の神が支配する小さな不条理を、四畳半の小さな舞台設定のなか、でもでっかい普遍の世界と日常のなかに描き出していて揺るがない。ここで感じる気持ち悪さって、ここの、いまの世界のものなの。

Verloc役が当初想定されていたPeter Lorreだったらなー、Sylvia Sidneyとの間でもっとすごい背筋の凍るようなものになったのではないか。

劇中に出てくるのはディズニーのアニメーション - “Who Killed Cock Robin?” (1935)で、久々にあの音頭が…  

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