12.13.2023

[film] Othello (1951)

12月7日、木曜日の夕方、シネマヴェーラの『文学と映画』特集で見ました。

正式なタイトルは”The Tragedy of Othello: The Moor of Venice” - シェイクスピアの原作(1603頃)と同じく。1952年のカンヌでグランプリを受賞している。

監督・制作・脚色・主演はOrson Welles、撮影には5人がクレジットされていて、そうなんだろうなー、って。91分の上映時間で、つまんなくなる画面が1コマ一瞬もない。モノクロの、光と影の構成とか作り方がおもしろくて飽きなくてあっという間。

最初がOthello (Orson Welles)とDesdemona (Suzanne Cloutier)の石切り場のようなところを行く葬送の列を鳥の目で捕らえる。鳥籠に入れて吊るされたLago (Micheál Mac Liammóir)がそれを眺めて、自分がしてしまったことの深さ(高さ)と重さを思い知っているような。(この場面は原作にはない)

ここから過去に向かい、LagoとRoderigo (Robert Coote)がOthelloとDesdemonaの愛と結婚を嫉んでDesdemonaの父Brabantio (Hilton Edwards)に告げ口したり、それがうまくいかないとなるやCassio (Michael Laurence)とDesdemonaの秘密の恋をでっちあげ、Othelloが彼女に贈ったハンカチをうまく使ってOthelloにあれこれ吹き込むと、彼の嫉妬心→絶望が予想を超えておもしろいほどめらめらと燃え広がり、噂がLagoの手を離れても勝手に噴火してひとりで溶岩にまみれてあとは悲劇に..

演者としての(黒塗り)Orson Wellesは – いつものことだが威風堂々ふてぶてしく動じなくて、これなら周囲からの好感も反感もたっぷり買いそう、と思っているとずぶずぶ、どちらかというと自分から自己嫌悪・憎悪の海に嵌って転がり落ちていくようで、そのさまをダイナミックに上から下から露わにする天井の高低とか網目のように被さってくる光と影の明滅がすばらしい。感情のドラマって、こんなふうに描くことができるのか、って。

6月のNTLで見た“Othello”もすばらしかったが、こちらの方が上演/上映時間も含めて原作には近くて長くて、周囲の人間関係や機構がゆっくりとOthelloを取り込み蝕み、そのクビを絞めあげていく様が生々しく精緻に描かれていた。 こっちの作品は、Othello vs. Worldという構図が孤絶した岩の島でくっきりと迫ってきて、その臨場感の生々しさが。

いろんな映像表現のしかたがコンパクトに並べられているのもすごいなー、って。


The Sea Wolf (1941)

同じ日の晩、上のに続けてみました。

邦題は『海の狼』。原作は1904年にでたJack Londonの同名小説。
監督はMichael Curtiz、脚本をRobert Rossenが書いている。こちらもなかなかの情念が燃え広がるすごいやつで、痺れた。

ひどい悪天候の晩、飲んだくれてぼろぼろの船員George Leach (John Garfield)がバーで後ろからぶん殴られてどこかに連れていかれる。どこかから逃げてきたらしくそわそわしているRuth Webster (Ida Lupino)は、そこにいた作家のHumphrey Van Weyden (Alexander Knox)に警察が来るのでカップルのふりをしてくれないか、って頼んだのに彼は拒んで、ひどいーって文句を、言ったところで大波が来てふたりとも海に投げだされ、気がつくと霧のなかから幽霊船のように現れた”The Ghost”に拾われて、そこではさらわれたGeorgeも働かされていた。

船長のWolf Larsen (Edward G. Robinson)は船員たちを暴力で縛って絶対服従を強いているやばい奴で、雇われている船員の方もみみっちいCookie (Barry Fitzgerald)とか自称名医だがアル中で手が震えて使い物にならないDr. Prescott (Gene Lockhart)とか、他にどこにも出ていけないやくざ者ばかりの地獄で、溺れて死にそうになったところをGeorgeからの輸血 – 血液型合っていないかもだけど、このままだとどうせ死んじゃうからやるか、って怖すぎ - で一命をとりとめたRuthとそれをきっかけに彼女に寄っていくGeorgeと、ずっと極悪一筋で成りあがってきたLarsenに文を書いたりミルトンの詩を愛でる知性があることに気づくVan Weydenと、この4人くらいを中心に、他の船からの襲撃とか船員からの反乱(数回)とか目が見えなくなってもしぶとく死なないLarsenの立ち姿とか、いろんな波風にさらされて... という海洋サバイバルホラー、というか。

海の上だと逃げようがないし、陸の上では生きようがないし、という行き場を失ったはぐれものたちの死ねないし生きれないやりきれないかんじが見事で、同じくMichael Curtizによるこないだこの特集で見たヘミングウェイの”The Breaking Point” (1950) - 『破局』も同じような船乗りのお話しだったが、すばらしい。

彼の”Mildred Pierce” (1945)なんかもそうだけど、追いつめられたかわいそうな落伍者たち、という描き方ではないの。ついていないけど、でも生きるから - なぜなら.. っていう強さ、激しさとしぶとさがまず前面にくるの。見習えない。

この映画でのEdward G. Robinsonのすさまじいこと。あんなふうに立っていても目が見えなくなってうずくまっていても、ああしているだけで岩みたいに「ある」演技をできる俳優さんて、いまいないよね。

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