12.19.2023

[film] Je l'ai été 3 fois! (1952)

12月10日、日曜日の午後、日仏学院のイベント『映画のアトリエ 〜フランス映画の隠れた名作を探して〜 Gaumont(ゴーモン) 特集』で見ました。

この特集では12月8日、金曜日の晩に“La Fille prodigue” (1981) -『放蕩娘』(+トーク)も見て、これはこれですごくおもしろかったのだが、Jacques Doillon - Jane Birkin - Michel Piccoliの、特に主演ふたりの延々止まないダンスのような異様な動きや表情を眺めて立ち尽くしてなんかすごいな、ってあんぐりしかなくてあまり書けることがないようなやつだった – でも見たほうがいいよ。

邦題は『これで三度目』、英語題は”I Was It Three Times”とか”I Did It Three Times”とか。上映後に須藤健太郎氏によるトーク付き。これぞギトリ! としか言いようがない、めちゃくちゃおもしろい一本。

冒頭はいつものように、スタッフ(バンドメンバー)の紹介から入って、作・監督・主演のギトリらが、ばらばらと撮影現場に集まってくるところをコメント(+ややイヤミ)つきで並べてこんなですー、と。

冒頭、貫禄たっぷりのベテラン俳優Jean Renneval (Sacha Guitry)が舞台で演じているときに、客席にいた御婦人Thérèse (Lana Marconi)を見初めて、お付きに身許を確認して近寄っていくが彼女は人妻なので、夫が夜中にいなくなる予定だからその時うちに来て(つっぱねないんだ..)と返して、ここから話はこの二人の逢瀬の方に向かうかと思いきや、Thérèseの現夫のHenri (Bernard Blier)が出かける前、彼女の友人の御婦人たちを前に自分が過去の結婚で寝取られた話をなんだか嬉々として語り始める。(へんなやつ)

最初の妻は彼のそっくりさんに取られて、二番めの妻は勤め先の宝石商に宝石を買いにきた富豪のスルタンに取られて – どちらも再現映像あり - どっちも彼自身の問題というよりは歩いていて道で転んだり穴に落ちたり泥棒に会ったりしたかのような語り口なので大変だったねえ、としか言いようがないのだが、この後に3度目の惨事が彼を襲うであろうことは目に見えているのでどきどきしながら見ていると、舞台本番の幕間にThérèseのところにやってきたJeanがベッドに入ったところで電車に乗り遅れたHenriが現れて、ちょうど舞台上の枢機卿の恰好をしていたJeanは…

タイトルがああだし、Henriはそもそもぜんぜんいけてない男だし、JeanとThérèseが一緒になることは目に見えているのでべつになんの心配もいらないのだが、なんてかわいそうなHenri.. にならないところもすごいったら。

「これで三度目」って、Henriにしてみれば、なんてこったほんとについていない、だろうし、周囲からすれば、やっぱしこれってHenriのあれだと思うし、でもちっとも懲りてないようだからこのままだと4度目だってぜったいあるよね、って思ってもぜんぜん構わなくて、結局は本人が幸せならそれでよいのだし、5回でも10回でもやっていってほしいな、と思いつつ、現世の寝取られではなく寝取りのほうで生々しく5度目までやったのがギトリその人だったわけだしー。

上映後のトークもとてつもなくおもしろくて。彼の映画、というより彼の演劇・演技を貫く大原則 - 彼の映画には彼の生きた世界 - オンもオフも - の全てが示されている、というのは例えばどういうことか、を具体的かつ平易に、でも割と大風呂敷のなかに置いてみせて、そうだよねえー しかない。

演劇とは愛である。演劇をやることは愛を交わすことである。反転して、愛とは演劇である。また、俳優とは演出家であり、俳優とは観客でもある。これらのパラドックスぽい(どうとでも言えそうな)言い草を孕んでくるくる変転していくさまがコメディとして展開されていく彼の映画 – でもあくまでこれは「コキュ」- 寝取られと「分身」というテーマを巡って重層的に展開されるフィクションだから、なんて言ってみたところでギトリと実父リュシアン・ギトリの寝取られの話があり、いやいやそれでも自分は俳優だから、なんていうぐるぐるが。

ギトリが64歳、本作の(だけでない)相手Lana Marconiが32歳で出会って恋におちてギトリにとって5回めとなる結婚をした時、ギトリは彼女に「君は未亡人になるよ」って言ったと。ギトリはこれが彼の最後の恋になることがわかっていたし、それを言われた彼女にしてみれば、次もあるって? ざけんな! になったろうし。なんかいろいろ - でも彼も彼女もスクリーンの上ではなんと素敵に輝いていることだろう。 と思って上のようなことを重ねてみると、演劇も映画もすごいな、って改めてー。

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