9.12.2023

[film] The Natural History of Destruction (2022)

9月2日、土曜日の午後、イメージフォーラムで見ました。

ウクライナのセルゲイ・ロズニツァによる《戦争と正義》という見出しのついたアーカイヴァル・ドキュメンタリーの2作。ナレーションもなく、日付や土地を説明する字幕もなく、アーカイブ映像を繋いでいくだけ、他のロズニツァ作品と同様、音だけは後から加えられていて、そこは賛否あるかも(あんなふうに聞こえるだろうか?)。 映像の繋ぎ合わせでそこでなにが起こっているのかをわからせてしまう。戦争の映像とはそういうもの。

元になったのはW・G・ゼーバルトの『空襲と文学』(1999) - これの英語題が”On the Natural History of Destruction”だった。邦題はここからの『破壊の自然史』。あのような空襲のあと、文学はなにを語ることができるのか? という問いに対して、ほれ、映像はこんなふうにやるよ、って。

重厚そうで堂々とした戦闘機が組みたてられて、そこに積まれていく銃弾の一本一本から機関銃から大小の爆弾まで、その工程や工場の、そこで働く男女の誇らしげな表情があり、チャーチルの演説などがあり、飛行機から投下されたそれらが地表に落ちて、小さな火花のように見えた光の粒が近づくにつれて大きな噴煙や火柱になって、町とか一帯を飲みこんで広がる空爆の様子が描かれて、爆撃された後の町では廃墟とか瓦礫を前に佇む人たちとか並べられた沢山の死体、それを覗きこむ人々の絵と。

部分部分は記録映画で断片として見たことはある(気がする)ものの、一連の流れとして見ると、これらは整然と組織化されたヒトの行動として流れていって、決して戦闘機や爆弾といった破壊兵器の仕業ではない、ヒトの集まりが寄ってたかって別のヒトの住む地域を焼野原にして、混沌をもたらし、大量の死体を転がしたことがわかる。これが「破壊の自然史」で、まるで山火事や大地震や火山噴火のように扱われてしまいかねないヒトの歴史で、あまりに大量で機械的で広範囲であるが故に「自然史」のような扱いと用語で捕捉しないことには処理・納得できない、人類による人類の大量殺戮のありよう。

解説によると『イギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツの131都市に100万トンの爆弾を投下し、350万軒の住居が破壊され、60万人近くの一般市民が犠牲となった』と。説明(言い訳)のしかたはどこもなんであろうとも同じで、戦争の災禍を止めさせるためには空爆も原爆も総動員もやむなしだった、というこれもまた「自然史」に沿ったすり替えの目線があり、これは直近のウクライナのだろうが、「テロとの戦い」だろうが、どこにも適用できる万能なあれで、でもなにをどう言ったってこれは人殺し(複数)で、ヒトがヒトを明確な意図と意志をもって、人為的に、抹殺する、そういうものなのだ、と – はっきり言うわけではないが、示そうとする。これを見ても「やっぱ連合国すげー Good Job!」とかいう人いないよね? いるのかな?


The Kiev Trial (2022)

9月7日、木曜日の晩、おなじくイメージフォーラムで見ました。 邦題は『キエフ裁判』。
久々にシアターに自分ひとりだけ、だった。

これもナレーション等は入らず、被告側のドイツ語による供述はそれを通訳するソ連側の言葉の方に字幕がつく。

1946年1月にキエフで行われた「キエフ裁判」- 第二次世界大戦の独ソ戦で、ナチスドイツとその協力者によるユダヤ人虐殺などの戦争犯罪の首謀者を裁いた国際軍事裁判の様子を描く。観客でびっしり埋まった法廷? にナチスドイツの15名が出廷して、最初の罪状認否では全員が罪状を「認める」か「一部は認める」かを申告して、そうだろうな、ってなるのだが、この後の生き残った人々による虐殺の現場の描写 - 一部は”Babi Yar. Context” (2021)にもあったもの - があまりに凄惨な地獄でおそろしく、それ以上におそろしいのは、被告人弁論での、命令だったから、他にやるものがいなかったから、やらないと殺されそうだったから、など、しらじらと語られるそのトーンだったかも。それ以外になにをどう言えばよいのか、くらいの投げやり感。

そして最後は屋外の広場で、被告全員が横一線に並べられての公開絞首刑 - 『処刑の丘』(1976)みたいな - が執行されて、執行の瞬間、広場を埋め尽くした観客の間からは大歓声があがって、ここもまたおそろしい。

自然史が抽出する「自然状態」と「法」、そこから導きだされる「正義」とは? というのはあるにしても、『破壊の自然史』の描写も含め、ここで淡々と繋げられた場面、その展開については少なくとも「正義」って呼んでよいものではない、よね?  だから戦争なんてなにがなんでも絶対に起こしてはいけないのだ、と。

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