9.16.2023

[film] L'innocent (2022)

9月10日、日曜日の午後、日仏学院で始まった第5回映画批評月間で見ました。邦題は『イノセント』。

メインとなるアルノー・デプレシャンの特集は最近のを除いてひと通り見直してみる予定で、大好きだし楽しみだけどものすごく過去や家族についていろんなことを考えたり振り返ったりすることになるので頭がぱんぱんになり、”Un conte de Noël” (2008) - 『クリスマス・ストーリー』のMathieu Amalricのように路地でばったん、てなってしまいかねない重い秋の始まりになるであろう。よいけど。

Louis Garrelの監督・主演による99分のクライム・コメディ。彼の監督作だと短編の”La règle de trois” (2011)とかのひねた文学青年ふう、が好きだったのだが、今回のはとにかくふつうにおもしろい(ほめてる)。脚本にone shotでJean-Claude Carrièreが絡んでいる、ってほんと?

冒頭、拳銃の使い方 - 間違えたら頭がふっ飛ぶぞ - をシリアスに指導する恐そうな中年男がいて、これからどんぱちとか襲撃に向かうところかと思ったら、それは刑務所内で行われた演技のワークショップで、演じていたMichel (Roschdy Zem)はそこの囚人で、そのワークショップを指導していた女優のSylvie (Anouk Grinberg)と出所後に結婚するらしい。

それを横で見ていておもしろくないのがSylvieの息子のAbel (Louis Garrel)で、めでたくMichelが出所 〜 結婚して朗らかで幸せそうなふたりを見て、一緒に彼女の夢だった花屋をやるんだ、っていうその店舗スペースを見に行ったらとても家賃とか払える立地ではなく、いや、家主とは知り合いだったから安くして貰えてさ、というMichelに、出所したと言っても過去からの闇のコネクションは続いてて、まだ片足つっこんでいるに違いない、と確信する。

Abelは水族館に勤めていて、やってくる子供たちにウーパールーパー - フランスだとぜんぜん違う呼び名なのね - のことを教えたりしてて、同僚のClémence (Noémie Merlant)とは昔から冗談を言い合う仲なのだが、ひとりになると亡くなった妻の写真を見つめてめそめそしている。 そういう辛さも抱えているので母さんには結婚して不幸になってもらいたくない、というのもあるらしい。

ひとりだと不安なのでClémenceを巻き込んでこっそりMichelの日々の挙動を観察したり追ったりしていくと、彼の上着のポケットに拳銃を見つけてしまったりやはり怪しくて、でもそんなAbelの動きはMichelとその仲間にはぜんぶお見通しで、Clémenceと一緒に次のヤマを手伝え、母さんを幸せにしたいだろ - さもなくば… って脅される。

狙うのは高額なイラン産のキャビアで、依頼主は花屋スペースの家主で(な? 母さんのためにも失敗したくないだろ?)、狙う予定の運搬車は必ず途中のドライブインに停まってドライバーひとりで夕食をとることがわかっているので、AbelとClémenceが隣りでひと芝居うって彼をテーブルに引き留めておけ、その間に俺らがコンテナを開けてブツを運びだすから、と。

画面分割したり「作家」っぽいことを試しつつ巻き込まれ型のクライム・コメディ、だけじゃなくてホームドラマの要素も孕んで全方位でよくできていておもしろい、というのが世間の評判らしいのだが、恋人同士の設定で渋々嫌々芝居をはじめたAbelが、食堂のトイレで見境がつかなくなりいろいろ感極まってぼろぼろ泣き出してしまう - そしてそれを受けたClémenceにも伝染してしまうシーンを見て、これ少女漫画(よい意味で)じゃん! て思ってしまった。そういえばLouis GarrelもNoémie Merlantも少女漫画によくある顔だよねえ、ってなると、これの登場人物設定のまま少女漫画で読めたらなー、となり、ついそっちの方に考えが行ってしまうのだった。

だから面白くない、なんてことはまったくなく、この後に寄ってきた警察も絡んで話は更に転がっていくし、SylvieとAbelの母子関係も改めて試されることになるし、ここでの「イノセント」ってなんなのか、など着地点に向かって目を離せなくなるのだが、犯罪を経由して家族がばらけて、また纏まろうとする、そういうストーリーの強さはあって、全員演技うまいしなー(ワークショップやるくらい)、って改めて。

これ、ふつうに劇場公開してもぜんぜん問題ないと思いますわ。しないの?

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