7.13.2022

[opera] Pelléas et Mélisande

7月6日、水曜日の晩、新国立劇場で見ました。全5幕の3時間25分。
オペラをライブで見て聴くのはほんとに久しぶりで、日本では初めて。

90年代の中頃にはお勉強したかったのでMetropolitan Operaに結構通っていて、一番最初に行ったのがFranco Zeffirelliの演出による”Tosca”だったりしたのでそれ以降、Zeffirelli演出の定番スタンダード - 舞台セットがなんか豪華絢爛でどーん - なので田舎者はひとめで圧倒される - を中心に見ていった。いまは随分チケット代も上がってしまったようだけど、当時はSecond Tierでも$80くらいだったし。 この後、自分の興味はバレエの方に移っていったのでRoyal Opera HouseでもPalais Garnierでもバレエしか見なかったのはちょっと勿体なかったかも。

で、この”Pelléas et Mélisande”は95年にMetで演ったとき、ドビュッシーのオペラってどんなだろ? ってJonathan Miller演出、James Levine指揮、メザリンド役はFrederica von Stadeの舞台を見ているのだが、そのときにどんなことを思ったのか、だからメモくらい残しとけバカ、って。

初演は2016年エクサンプロヴァンス音楽祭で、演出は英国人のKatie Mitchell、指揮は大野和士、すばらしいセットデザインはLizzie Clachan、Pelléas役はBernard Richter、Mélisande役はKaren Vourc’h、Golaud役は初演時と同じLaurent Naouri。

原作は1892年に出版されたメーテルリンクの戯曲、フランス語で書かれてフォーレやシェーンベルクも題材としたこの作品をドビュッシーは原作のテキストをほぼそのままオペラにしている。世紀末の象徴主義の煮凍りのような悲劇を印象派がゆらゆらに揺さぶって象徴たちがどんなふうに水や光に溶かしこまれていくのかを眺める。

舞台セットもコスチュームもモダンで、舞台は向かって右の2/3くらいがメインのベッドルームになったりリビングになったりダイニングになったり、左の1/3は通路だったり待合室のような待機室のような中間地帯で、それが縦に延びると螺旋階段に変わったり、右側も上に延びて階上のベランダができたり、下に延びて廃墟のようなプール(泉?)になったり、お城の堅牢さや壁のぶ厚さからは離れ、現代建築の薄板書割構造 - でも外には抜けられずに同じところを縦横に彷徨うしかないどん詰まりになってて、そこにEdward Hopperの光が右方から射しこんでくる。

はじめはドレス(ウェディング?)を着たメザリンドがひとり、ベッドに倒れ込んでぼーっとして、赤い点は鼻血をだしていたのか、自分はどこからきてなんでここにいるのかもわからない、とか記憶喪失のようになってて、そこに王様の孫のゴローが現れてさらうように彼女と結婚してしまう。続いてゴローの異父弟のペレアスが現れてメザリンドに魅せられて恋仲になって、こうして始まる王族とメザリンドの孤独と葛藤、兄弟間の確執など、どろどろした - でもなんでこんなことになってしまったのか誰にもよくわかっていない事態を、冒頭の鼻血を噴くメザリンドの悪夢、というよりあんま中身のなさそうな夢の出来事のように切り取って歌う。

夢の中なので、よくあるように中心にいてアクトする自分とは別のもうひとりが自分の挙動を横でしらーっと眺めてなにやってんの? ってなっている様を舞台ではふたりのメザリンドを登場させることでうまく見せている。歌に集中できるというのもあるだろうし、自分を外からしらーっと眺めるのと自分が自分でなくなっている事態を、恋と孤独に引き裂かれたありようとして晒して、ホラー映画のように伸び縮みする家、水のない廃墟のプールはその果てのない彷徨いの舞台として申し分ない。

そのままモダンのドラマにするのであれば、ミニマルな出口なしの家族ホラー(はげの強権的な夫と情熱的な王子との三つ巴)サスペンスが相応しいと思うし、そのままオペラではない上演形態にもじゅうぶん適用できてしまう気がするのだが、これはメーテルリンク/ドビュッシーのオペラなので、そのタガとか布に覆われたときにどんなふうに見えるのか。力強く盛りあがったり扇情的に歌いあげたりの一切ない、ゆらゆらひらひらと水のように揺らいでとどまらない音の流れはここにはまっているようないないような。見ていて、そのはまらないかんじもまた気持ちよいことは確かだったのだけど。

たぶん、オリジナルだとどん詰まりの悲劇になってしまうところをメザリンドの夢に集約してしまうことで、どこまでも終わらずに転がっていく孤独と悪夢に変容させる、それはまったく違和感ないのだが、そうした時にもっとよいサウンドトラックはいくらでもあったのではないか、というのはあるかも。

新国立劇場って、これがオペラを演って見る場所なのかー、って。椅子は座布団がないと痛いししょぼいしちっとも華やかじゃないねえー。Metの、開演前にシャンデリアがぐおおーって上がっていくあれが恋しい。

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