7.11.2022

[film] サッド ヴァケイション (2007)

7月3日、日曜日の夕方、テアトル新宿で見ました。

5/1に見た”Helpless”(1996)、5/14に見た”EUREKA”(2000)に続く“北九州サーガ”の3作目。再見だったのだが、こないだの5月から - 青山真治が亡くなってから – 改めて順を追って見ていくサーガと、当時見ていた頃のとはやはりぜんぜんちがう。最初に見たとき、これは彼にとってのヨクナパトーファ・サーガになるのだと思ったのだが、もうそれはできない(ああものすごくざんねん)のだと思うと..

とにかくこの3本をでっかいスクリーンで見た時の映画としか言いようのない音と景色の広がりって - ただの道とか橋とか海とかでしかないのに - あっけにとられるくらいすごいので、とにかく見てみ、しかない。

冒頭、北九州の橋をまんなかに漂うような空撮と共に”Sad Vacation” (1983)が流れてくる。Johnny ThundersがSid Viciousに捧げたバラッドで、あーもうしょうもないことだねえ、みたいに歌う。このサーガでSidというと”Helpless”の片腕の安男(光石研)しかいないので彼が再びやってくる、ということか。Johnny Thunders なら“Born Too Loose”でも、なんなら”Chinese Rocks”でもよかった気がするけど。

健次(浅野忠信)はチャイニーズマフィアの密航の手引き手伝いをしていて、移送船内で亡くなった男の傍らにいた男の子アチュンを連れて帰って、ユリ(辻香緒里)と一緒に面倒を見ることにする(うさぎふたたび)。代行運転の仕事をしていて恋人となる椎名冴子(板谷由夏)と出会い、さらに同じ仕事で自分を捨てた母親 - 間宮千代子(石田えり)を見かけてぶつかって、そこの家業である間宮運送に住み込みで働き始める。

同じ頃、東京では茂雄(光石研)と秋彦(斉藤陽一郎)が梢(宮崎あおい)の捜索をしようとしていて、その梢も間宮運送に流れてきて”Helpless”だった連中と”EUREKA”した彼女がひとところ – いろいろあって普通の仕事にはつけない事情を抱えた者たち - 後藤(オダギリジョー)とか - の吹き溜まり - に寄せられていく。 そこでなにが起こるというのか。

健次は自分を捨ててよその男に走って父親を自殺に追いこんだ千代子が憎くて憎くてたまらず、はっきりと彼女への復讐目当てで彼女を痛い目にあわせるために間宮の家に移ってくるのだが、そこには温厚な義父繁輝(中村嘉葎雄)と反抗的で狂暴な義弟勇介(高良健吾)がいて、千代子はぶっとくにこにこしながら健次に跡継ぎになってもらいたい、と告げて冴子に生まれてくる子供についても口を挟むようになってきたのでふざけんじゃねえぞってめらめらしてきたところで癇癪を起した勇介が..

空っぽのなにか、空っぽになってしまった何かを埋めるかのように憎悪をたぎらせて暴力の連なる土地に生きてきた健次たちが、新たにやってきたもの、生まれてくるもの、それを囲いこもうとする or 連れ去ろうとする力に対してどう折り合いをつけたり受け容れたりすることができるのか。『あの女を不幸にするためなら、俺はどんなことでもやってやる』(ポスターのコピー)の通り、なにかんがえとんじゃぼけー、って千代子に対して吠えまくって突っかかっていく健次なのだが、最後の千代子と健次の面会の場面では完膚なきまでに叩きのめされて空から岩石を落とされて、これって笑うべきところではないよね、とは思うものの、ものすごくおかしくて最高で、なんでこれがこんなにおかしいんだろ? ってなる。Sorry.. Sorry.. (わりいな~)ってへろへろと歌っていた人が180度反転して言われてしまう側になってしまうどんでんのおかしみというか。 そこにトドメをさすのがラストにしゃぼん玉で、あれってどんな爆弾や手榴弾よりも強い、なにもかも吸収してしまうバルンガみたいなやつ。

こんなふうに家族内/外に生起するパワーゲームを描いたコメディのように見ることもできるだろうし、いろんな乗り物 -最初のはバイク、ふたつめはバス、最後のはトラック - で暑い町を抜けて走って拾ったり喪ったり、でもどこにも辿り着けなかったある夏の話、としてみることもできるのかも知れないし。

サーガの続きが作られたのだとしたら、健次が出所して梢の兄の直樹も出所して、アチュンも還ってきて、梢の母か沢井の元妻に登場してほしかったかも。「母」をめぐる力強い女性映画になったのではないか。映画が無理なら小説でもよかった。しみじみ残念しかない..


金曜日からきもちわるくてTVを見ていない。昔からだけど、カルトに正面から突っ込めないメディアってただのクズだよね。スポンサーってこと? なら余計にゴミ以下。

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