7.01.2022

[film] In Front of Your Face (2021)

6月25日、土曜日の午前、シネマカリテで見ました。
ホン・サンスの2本が(2本も!)新たに封切られて梅雨のさなかにこんな嬉しいことがあろうか、って思ったら梅雨が明けてしまった。 邦題は『あなたの顔の前に』。2021年のカンヌで上映されている(ホン・サンスにとって26本目の長編、11回目のカンヌだそう)。

2016年以降ずっと彼の作品に出ていた女優Kim Minheeは本作には出ておらず、プロダクションマネージャーとして参画している。

冒頭、主人公のSangok (Lee Hye-young)が眺める窓の外の光景 – モザイクがかったビルの淡い模様があり、ベッドで寝ている女性 – あとで妹のJeongok (Cho Yunhee)とわかる – の寝顔を見つめる。なにかを決意し、過去でも未来でもない今を.. というようなことを祈るように自分に言いきかせたりしている。

Sangokはずっとアメリカで暮らしてきて一時なのか永久なのかは不明だが韓国に帰国している。アメリカでは食料品店に勤めてから女優になり、通りがかりの人から女優さん? と言われるくらいには有名で、今回の滞在は久々でしばらくはいるようなのでカフェで朝食を食べながら近所にいい物件があるから買っちゃえば、って妹に言われたりしている。(どうでもいいけど、ホン・サンス映画って食事をしながら家を買う買わない話ってよく出てこない?)

彼女はその日の午後に女優の仕事で人と会う約束があるので、と言いながら甥っ子のやっているトッポギ屋に寄って、すれ違いになりそうだったけど彼女が子供の頃から可愛がっていた甥とハグできたり、小さい頃に暮らしていた家 – いまはお店になっている - を訪ねてそこの店員と話してみたり。トッポギを食べてて服にシミがついた、それで一旦戻って着替える着替えないを気にしてしまう細さと繊細さ、どこか切実かつ必死っぽいなにかが彼女を動かしているかのような。

午後の遅めに居酒屋 “Novel”で会った映画監督のJaewon (Kwon Haehyo) – また呑み屋でこいつか… って少し - との会話はこれまでのホン・サンス作品の酒を吞みながら気がついたら.. の自堕落な(そういう流れを生んでしまうものとしての自堕落な)ノリとは程遠く、Jaewonは控えめに彼女の過去の作品について語りつつずっと彼女のファンであったこと、もし一緒に仕事ができるとしたらこんなにすばらしいことはない、などと語り、彼女もその言葉に感動して、ぎこちなくつま弾いてみたギターにふたりで痺れて動けなくなっていて、書いていくとなにこれ? かも知れないが、向かい合うふたりの一連の目の動きとそれぞれの顔の前で動かなくなった空気を映像としてみると気まずいどころかなんだか感動的で、そこにSangokの控えめな告白が加えられるとああやはり.. って。

そして、だからと言って次にできることなんてあまりなくて、監督は明日あなたの短編映画を撮ることはできないだろうか、とか、つまりあなたはわたしと寝たいっていうことなの? とか思いつきのように計画のようなものが出てきても結局は一緒にしんみりタバコを吸うくらいで終わってしまったり、他になにができるだろうか? って。なにもできなくてぐるぐるまわって次の朝には冒頭のシーンと同じように妹の寝顔を眺めて、それは前の日のと同じいつもの朝なのだろうか、とか。

ポスターにもあるLee Hye-youngの横顔と薄手のコートを纏った立ち姿がすばらしくそこにいるかんじがあり、彼女の過去も未来もすべてが塗りこめられているかのような形象の、それはもちろん絵画ではなくてほんとうにそんな今の、現在の顔をしている。それは正面 – Frontからの顔ではなくて、でももし正面から目をみて向かい合ったとき、彼女は、あなたはどうなってしまうのだろう。いまの、目の前にいるあなたがどこから来たのか知らんが、その息を止めて、ここにいて、って抱きしめたくなる。 久々に見た気がする「彼女を見よ、その姿を刻め」っていう女性映画。 なんであんなにすっとした人の表情、動きとか姿勢とかができるのだろうー って。 世のほとんどの難病ドラマを彼方に蹴散らしてしまう凄みがある。

ここでこんなふうに噴出してくる(ように見える)想いのようなのって、どんなイメージの連なりのなかで生まれてくるものなのか、というのがホン・サンスを見るといつもくるやつでー。

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