10.30.2021

[film] The Velvet Underground (2021)

10月23日、金曜日の晩、Apple TV+で見ました。音の肌理はすばらしくよいし、二画面構成もかっこいいし、こんなの映画館で見ないでどうするよ? なのだがやってくれそうな気配ゼロなのでしょうがない。

Todd Haynesによるドキュメンタリー。単なるバンドヒストリーを追ったものには当然なっていない。

バンドがバンドになるまでに約40分くらいかけている。ブルックリンに生まれてシラキュースに学んだ不安定な青年Lou Reedがバイトで書いた曲 - "The Ostrich" - がんがん流れる - を演奏するためにTony Conrad やWalter De Mariaと組んだバンド - The Primitivesにウェールズでクラシックを学んだビオラ奏者John Caleが入る。こうしてLou ReedとJohn Caleが出会い、そこにSterling MorrisonとAngus MacLiseが加わり、ドラムスがMaureen “Moe” Tuckerに替わる。 こうして出来上がったバンドはBarbara Rubin経由でAndy WarholのFactoryに連れられて繋がって、そこにNicoが加わってー。

東海岸、60年代のアートシーンがMary Woronov, Amy Taubin, Jonas Mekasといった人々のコメントと共に語られて、バンドの結成とその音の組成が、単なる優れたメンバー間のケミストリーから生まれたマジックだったのではなく、当時のダウンタウンやFactory周辺に吹き溜まっていた政治やアートに対する、あるいは西海岸のヒッピー文化に対する敵意や嫌悪も含んだくそったれ、という集団の意識や態度 - そこには当時のFactoryのあからさまなルッキズムも含まれる - の表明とその連鎖から導かれたものであったことが明らかにされていく。

当時のイメージとしてのロックが抱えていた反体制アート、のようなところからしれっと離れて、”I'll Be Your Mirror”と歌い、I’m Waiting for the Man”と歌い、”There She Goes Again”と歌い、”It’s nothing at all”.. とつぶやく。あなたもわたしも彼女もみんなもここにこんなふうにストーンしたりラリったりしてあるだけいるだけ、の状態を轟音とびかびかのライトの中で歌ったり晒したりしてそのまま置いておく。サーカスの曲芸のようにくすぐって投げ銭を集めていくZappaのスタイルがうざかったであろうことはよくわかる。

Lou Reedのがしゃがしゃとイラつくギター、Moe Tuckerのとことこしたドラムス、レースのように伸縮するSterling Morrisonのギター、重油のようにうねるJohn Caleのドローン、そこに被さる異様な - 決して美しいとは言えないLouやNicoの声。なんで彼らの音はあんなふうに変てこなのか - こんなだから彼らの音はあんなにも優しくスイートでエロティックでジャンキーでやかましくて凶暴で傲慢でドラッギーなのだ、いつのどれを聴いてもベルベットのように包んでくれるのと同時に二日酔いの吐き気を思い出させてくれるのだ、と。 そういうことを関係者の証言、というよりはAndy Warholが撮ったメンバーたちの”Screen Test” (1966)の映像や"Chelsea Girls" (1966)の手法を用いて - 映像だけでなく、音楽もすばらしくかっこよく繋ぎつつ - フィクションのようだけど実在したバンドのように経験させてくれる。 例えばいま、WarholやJonas Mekas - この映画は彼に捧げられている - が彼らの歴史を撮ったら(撮るわけないけど)、こんなふうになったのではないか、と。

という点で、これはTodd Haynesと撮影のEdward Lachmanが”Far from Heaven” (2002) - “I’m Not There” (2007) - “Carol” (2015)とかでやってきたことにすんなり繋がっていくかんじがした。

2018年にNYのダウンタウンで見た、”The Velvet Underground Experience”っていうあんまぱっとしなかった展示よりよっぽど彼らを”Experience”させてくれるものだった。

ファン代表として(VUについてもわれわれのJR像にも)期待通りのコメントをしてくれるJonathan Richmanも素敵。もしRobert Quineが生きていたらどんなことを語っただろうか。

あと、Moeが”After Hours” (この曲を嫌うひとなんているのか)の演奏について語るところがたまんなくて悶えた。

劇場で上映するのであれば、Warholが撮った2本のライブフィルム - “The Velvet Underground and Nico” (1966),  ”The Velvet Underground in Boston” (1967)も併せて。 あとはこないだのイメージフォーラムでやったBarbara Rubinのドキュメンタリーも一緒に。それができるならJonas Mekasの何本かも加えて。 あ、こないだのZappaのドキュメンタリーもついでに。(以下えんえん)


もう10月が終わってしまう。 この国ももうじき終わってしまうにちがいない。

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