9.01.2021

[film] After Love (2020)

8月27日、金曜日の晩、BFI Playerで見ました。英国はロックダウンを終えたので新作映画は映画館リリースが中心になっている。これが6月にリリースされた時もすぐに見たかったのが、ストリーミングに来るまでに約3ヶ月かかった(泣)。

英国-パキスタン系のAleem Khanの長編監督デビュー作。BFI - BBC制作。すばらしかった。

英国人のMary (Joanna Scanlan)はAhmed (Nasser Memarzia)と結婚してからイスラム教に改宗して、ドーバーに暮らしていて、夫は仕事でドーバー海峡を行き来している。ある晩、ふたりで家に帰ってきて寛いで鼻歌を歌っていたらソファで夫が亡くなってしまう。あまりに突然なのでお葬式でもひとり茫然として泣くしかないMary。

やがて夫の財布から彼のフランス人のIDとGenevieveという女性の写真と住所が出てきて、更に彼のスマホには彼女からと思われる親密なメッセージが沢山落ちてくるので、Maryは意を決して対岸のカレーのGenevieveのところに行ってみる。

その住所に着いてそれらしい女性がいたのでMaryが寄っていくとGenevieve (Nathalie Richard)はヒジャブを被っておとなしそうな彼女を見て派遣された掃除婦だと思い込んで、さばさばした態度でありがとう中に入って、引っ越し前で大変なのよ助かるー、とか指図してくる。

ちがうとも言えず戸惑いながらもMaryは、彼女からまったく見えなかった亡夫の反対側の人生に足を踏み入れることになって、そこに掛かっているAhmedのシャツの匂いを嗅いだり、神経質そうな彼の子Solomon (Talid Ariss)と会ったりしていく。それは彼女がそれまでAhmedと積みあげてきた人生を根底からひっくり返すものだったし、もしそれがGenevieveにばれたら彼女の側の人生も壊すことになる(GenevieveもSolomonもAhmedの死を知らない。メッセージ送っても返してこないよ、とか言ってる)し、なによりもその後になにがどうなるのか、誰のためにやっているのか、どういう結果を得たいのか自分でもわからないのが怖ろしい。

ドラマの前半のトーンは崩壊/自爆の予感に溢れたスリラー/サスペンスのそれ - 天井にひびが入って落ちてくる床に水が満ちてくる - で、その恐怖がGenevieveの家庭に入り込んでGenevieveの不安 – Ahmedと結婚はしていないという – やゲイであるSolomonの惑いや苛立ちに触れたり、お腹が減ったという彼に引っ越し箱のなかから缶やスパイスを取りだしてサーグのカレーを作ってあげたり(おいしそ)しているうちに自分と同じように拠りどころが不在のまま宙に浮かんでいる家族の痛みがわかるようになってきて、でもやがて破局はやってくる..

その破局は自分が望んだものだったのか、これは喪失なのか失恋なのか、鏡の前で服を脱いで自分の肉を見つめるMaryの虚無と絶望はそのまま残されたふたりにも転移して – “After Love”。

ふっくらとして寡黙なMaryと対照的に瘦せぎすで饒舌なGenevieveと神経質なSolomon、会話には英語とフランス語とウルドゥー語が混じって、それぞれの持つ写真の中/ビデオの中/録音テープの中に亡霊のように現れるAhmedの姿、カレーの海岸とドーバーの崖の間に立つ生者と死者、生きているものも死んでいるものも彼らはどうやってなにかを残そうと、残ろうとするのか。もういっこ、Ahmed, Mary, Genevieveの間に無意識に横たわっている差別意識(GenevieveがMaryに会ったときの態度とか)のことも。

これらをそれぞれの家の屋内、それぞれの海辺(崖)の線上に細やかに散りばめていて、その線上、その距離を踏んで、さてどうやって生きようか、という。

まだ考え中なのだが、これ、男性の方が死ぬ、車を持たない女たちの「ドライブ・マイ・カー」なのではないか、って思った。

主演のJoanna Scanlanさんがとにかくすばらしい。印象に残っているのは”Pin Cushion” (2017)の毒母とか、“How to Talk to Girls at Parties” (2017)の主人公のママとか、最近だと”How to Build a Girl” (2019)にも少しだけ出てて、どちらかというとコメディ系が多かったのだが、こんどのはとにかく強い。

日本でも公開されますようにー。 むりかなあ..



世の中はとにかく悲惨であたまにくるのばっかりで、文句書き始めると止まらなくなるので、しばらく書かないでおく。
そういうののためにTwitterがあるのかもだけど、そういうのには使いたくないしー。

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