8.30.2021

[film] Seize printemps (2020)

8月25日、水曜日の夕方、ユーロスペースで見ました。ユーロスペースに来るのは帰国後はじめて。
そしてここのスクリーン2の入り口のとこの段々でまた躓く。もうここで50回くらい躓いているとおもう。

邦題は『スザンヌ、16歳』、英語題は“Spring Blossom”。
この夏の青春映画として”Summer of 85” (2020) とセットになっているかんじもあるのだが、映画としてはこっちの方が遥かにおもしろい – 「物語」を噛みしめたいひとにはオゾンの方がうれしいのかな。

主演のSuzanne Lindonが15歳のときに脚本を書いて、20歳のときに監督(デビュー)して主演もした74分の作品。2020年のカンヌのオフィシャルセレクションに選ばれて話題となった。

Suzanne (Suzanne Lindon)は16歳の高校生で、家族(父、母、姉、姉の彼も)ともそこそこ仲良いし、同級生はガキばっかしであーあ、と思いつつもなんとかやっている。部屋にはバンビのポスターと”Suzanne”と大書きしてあるMaurice Pialatの”À Nos Amours” (1983) -『愛の記念に』-のSandrine Bonnaireのポスター(役名はSuzanneで、”Suzanne”は映画のworking titleだった)が貼ってある。

ある日通学路のカフェでひとり物思いにふける舞台俳優のRaphaël (Arnaud Valois)の姿を目にして気になる。彼は近くの劇場でマリヴォーの戯曲 “Les Acteurs de bonne foi” - 『本気の役者たち』を演じることになっていて、彼が劇団スタッフと話しているところを見ると、彼自身も上演に向けてなんかもやもやを抱えているようで、近寄ってみたくなる。

でもそれだけ。 彼女はなんでどうやってRaphaëlに近づきたい、近づこうと思ったのか、親密になったのか、そして離れることになったのか、を背景をとばしたラフスケッチのようにざっくり描く。ピアラ映画のように生活や家族に不満や軋轢があったわけでも、学校生活が嫌になったわけでも、Raphaëlのどこに惹かれていったのかも、明確に説明されることはなくて、この辺はまだロメール映画の主人公たちの方が会話のなかで意見・意思表明したりしてわかりやすいのだが、それもない。彼女の彼を(彼の赤いスクーターや稽古風景を)追ったりする目線とか物思いにふけったりメイクをしたりする様子から、そうなのかも、って思うくらい。所謂「初体験」なんてカケラも出てこない。この辺の撮り方・追い方はドキュメンタリーのように危なっかしく不安定に見えないこともない。

それが鮮やかに明らかに転換するのがSuzanneがこれは恋なんだわ、って確信する瞬間の描写で、ここの演出はあきれるくらい段差も作為もなく見事に繋がってフィルムがまるごとスイングする。そしてRaphaëlとふたりでカフェのテーブルや舞台の上で、オペラに合わせてダンスをするシーンの共振の、あわせる、というより共に震えるかんじのぎこちなさ。ここからどこに向かうのやら、って。 でも、ここに大人の男性の恐がらなくていいんだよ/教えてあげるから安心して - のどこから来るのかやらしい目線はぜんぜんないの。最後なんて、男の方が迷い犬みたいに頼りない目になっちゃうの。 このすっこ抜けたクールさって”Diabolo menthe” (1977) - “Peppermint Soda”とか、Claire Denisの”US Go Home” (1994) とかにあったやつに近いかも。こんなもんなんだよ、おら、ってふてぶてしく投げてくるやつ。

みんなが言っている/思い浮かべるであろうCharlotte Gainsbourgとの比較はまだ自分のなかでうまく整理がついていないのだが、やっぱりこれはSuzanne Lindonとしか言いようがない、そういうデビュー作になっているとは思う。ラストに流れる彼女自身が歌う主題歌も素敵で、EPほしいったら。

グレナデンにレモネードを入れたやつ、飲みたい。こうしてもう夏は行ってしまうのかしらん。


海の彼方からLaura Nyroの箱がやってきた。8月を生き延びることができたお祝いに少しづつ聴いていこう。

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