8.31.2019

[film] Notorious (1946)

16日の金曜日の晩、BFIのCary Grant特集で見ました。誰もが知っている『汚名』。

今回のCary Grant特集の前半の目玉、BFIやMOMAのアーカイブプリントから4Kリストアされたゴージャスな陰影を湛えた決定版。ほんとにどこを見ても切ってもきれい。うっとり。

父がドイツのスパイ疑惑をかけられてなによあの娘、の目で見られていて、なにもかもどうでもよくなってしまったAlicia (Ingrid Bergman)に得体の知れないアメリカの諜報員T. R. Devlin (Cary Grant)が近づき、彼女の父の友人で闇の武器取引で儲けているらしいAlexander Sebastian (Claude Rains)に寄っていって身辺を探るように指示をする。こうしてSebastianを追ってふたりはブラジルに飛び、その過程でAliciaはDevlinのことを好きになって、SebastianはAliciaのことを好きになって、AliciaはいきなりSebastianから求婚されてしまい、想定外だったのでええーってDevlinの方を向いても、彼はそれで有益な情報が得られるかもだしがんばれ、ってつれなくて、仕方なく求婚を受けいれて、いやらしい姑のねちねちとぜんぜん好きになれないおやじ共の餌食になりつつもなんとか証拠らしきものを掴んだところで連中に感づかれ、コーヒーにクスリを仕込まれて動けなくなって絶体絶命..

Aliciaついてないかわいそうー、ってずっと思いつつ見てしまうのだが、追うべきはここに恋というものがあるとしてそれはどっちの方に転がっていくのか、っていうのと、DevlinはSebastianの尻尾を掴んでひったてることができるのか、っていう螺旋状に絡まったふたつのサスペンスの行方で、そこにはでなどんぱちとか殴り合いとか修羅場はなく、互いに自分が最高の男であるとそれぞれが(たぶん)思いこんでいるナルシスト同士のつーんとした駆け引き(睨みあい)がすべてなの。そしてそれがぎりぎりの睨みあいのまま、静かに、しかし堂々とドアの向こうに消えていくエンディングは溜息がでるくらい素敵。

でもやっぱしそんな変態男(どっちも、ぜったいそう)共の間に挟まれてすり減っていくAlicia、かわいそうだよね。最初のほうで酔っ払ってやけくそドライブしたときも、終わりのとこでクスリで体動けなくなったときもDevlinに救われてよい顔されて、きっとこの後も好き放題にやられちゃうかもしれないのに、そんなんでもいいの?  ちゃんと彼の給与明細とか見といたほうがいいよ。

ここでのCary Grantはなかなか真意を見せない正体不明の怪しい男で、ひょっとしたら結婚詐欺師なのかも知れないし、”Suspicion” (1941) - 『断崖』みたいに一緒になってみたら実はどうしようもない博打野郎だったりしそうで、”Notorious”っていうタイトルも実は後々になって振り返ってみたDevlinのことなのかもしれない、とか。

でもやっぱしこれはIngrid Bergmanがどこまでもすばらしい映画で、突然はらりと涙をこぼしたり、酔っ払って制御できなくなったり、ワインセラーの鍵を外すだけなのにものすごい力こぶいれていたり、クールネスと酩酊状態の間でなにをやっても素敵なのだが、なかでもCary Grantとのキスシーンの生々しさときたらほんとにとんでもない。

これをコメディにするとしたら、やはりつれないDevlinに愛想つかしたAliciaがSebastianの方に傾いて、あんたの捜査なんて知ったこっちゃないわ、って言った途端にDevlinに火がついていろんな嫌がらせと奪還工作をはじめる、ていう”His Girl Friday”方式、になるのだろうか。でもその場合、Alicia役はIngrid Bergman ではなくてCarole Lombardだよねえ – (そういえば割と似た設定の“To Be or Not to Be” (1942)があったね)。

どうでもよいけど、”Notorious”ていうタイトルを見ただけで(たいして好きでもないのに)「の」♪「の」♪「の」♪ ..って勝手に頭の奥で鳴りだしてしまう人はお友だち。

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