6.10.2019

[film] Vendredi soir (2002)

3日、月曜日の晩、BFIで見ました。BFIでは6月の間、”The Original Sin of Claire Denis”と題したClaire Denisの小特集 – 10作品上映 - をやっている。そこに引用された彼女の言葉
- “Not to have love or pain in your heart means that you are not a very well finished human being”。

ただどの作品も1~2回くらいしか上映がないのと、上映回がだいたい20:30過ぎなのがなあー。

英語題もなくタイトルはこのまま、訳すと「金曜日の夜」。日本公開はされていない?。

Claire Denisの作品は、いつも見る度にこれが最高傑作だわ、になるのだがこれもそうだった。

原作はEmmanuèle Bernheimの同名小説で、彼女自身が脚本も書いている。

最初はLaure (Valérie Lemercier)が引越しをするのか夕暮れ時の部屋でひとり淡々と荷造り - 箱詰めをしていく様が描かれて(いろいろ思いだしてそれだけで泣きたくなる)、そこから着替えて自分で車を運転して友達の家に向かおうとするのだが、交通ストの影響で車は渋滞にはまってぜんぜん動けなくなる。金曜日の晩で通りはざわざわ賑わっていて、でも寒そうだし雨だし、翌日は引っ越しでそこから先は彼と一緒に住むことになるのだし、ラジオのいろんな音や喋りを聞きながら、いろんな思いが去来しては現実 - 車のなかで動けず – に戻されたり、うーってなっていると、見知らぬ男 - Jean (Vincent Lindon)が乗りこんできて、乗っていいか? どこでもいいから行けるところまで連れて行ってくれ、という。

なんでそんなことを許したのか、Laureにもあまりよくわからなくて、みんながイラついているこんな時こそ少しはよいことを、くらいだったのかも。始めは怖々会話を進めていく - 程の会話にもならないかんじでぎこちなく互いの顔を見たりしているばかり、車が全く動けなくなったところでJeanが運転を替わってものすごい勢いと技術でそこを抜けだしたのを見て少し怖くなって一旦はさよならするのだが、疲れてカフェに入ってみるとそこには彼がいて、もういいや、みたいに友達の方には謝って、一緒に近くの安宿に入って、食事して、そして。

引越しという、それ自体が金曜日の晩みたいな作業(行きたいところに行くための準備)でぐったり疲れて、渋滞(行きたいところに行けない、行きつけない)で更にうんざりして、あらゆる行き場を失ったときに妄想か、みたいにかっこいい男が現れて、自分のことをべらべら喋るわけでも、自分に対してあれこれ詮索してくるわけでもなく、頼もしい犬みたいに黙っていてくれるのが現れたらさー、みたいな話で、現実だろうが妄想だろうが金曜の夜なんだから許しておくれよ、みたいなトーンでよいの。

安宿に入ってからのふたりの抱擁も激しく何かを吐き出すようなものではなく、静かで暖かくて、彼女の疲れもほんのり甘い希望も底に流れる痛みも(そしてJeanのそれも)、そこに触れてくる乾いた肌のかんじもしんみりと伝わってくるようで、たまらなくよいの。 そして、これってここからなにかが始まるようななにかでもなくて、これは金曜日の晩で、週末の手前なんだ、って。 例えば、Edward Hopperの世界 - 絶望と希望の中間色 - は少しだけあるかも。

撮影はAgnès Godard。 上映は35mmプリントで、これは35mmじゃないと絶対だめ、みたいな色みと質感だった。カーラジオのパネルがちょっとだけ弾んだり、ピザの具がちょっとだけ微笑んだり、それだけで世界が変わってしまう、そういう魔法が。

音楽は、この頃はまだTindersticksにいたDickon Hinchliffe。

ここで流れる時間をうんと引き伸ばして空間を宇宙の彼方にすっ飛ばして、うんと野蛮で非情な方向に持っていくと”High Life”になるのかも。

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