1.08.2019

[theatre] Summer and Smoke

12月20日、木曜日の晩、Duke of York's Theatreで見ました。
昨年の春、Almeida Theatreで行われたこの公演のレビューがよくて、そのせいかチケットはぜんぜん取れなくてしょんぼり、だったのだが、West Endに来て再演してくれた。

原作はTennessee Williamsの1948年の戯曲、彼の作品としては『ガラスの動物園』(1945)や『欲望という名の電車』(1947)よりは後で、『熱いトタン屋根の猫』(1955)や『去年の夏 突然に』(1959)よりは前のもの。 公演時の不評を受けて後々、1964年に”The Eccentricities of a Nightingale” - 『風変わりなナイチンゲール』としてリライトされている。

翻訳は『夏と煙』のタイトルで大昔に出ているようだが未読。 映画化はPeter Glenvilleの監督で1961年にされていて、この時のAlma役はGeraldine Page -  こちらも未見。

演出はRebecca Frecknallで、彼女は同作を2012年にSouthwark Playhouseで演出しているので彼女にとってはリバイバルにあたるのだと。

ステージの背後の少し高くなった檀上に朽ちたようなぼろアップライトピアノが7台、中心を囲むようにぐるりと並べられていて、それぞれの上にはメトロノームがあって、照明はやや暗め - 教会の礼拝堂のような雰囲気。最初に登場人物全員が影のようにそうっと出てきてそれぞれピアノの前に座り、全体として合っているんだかいないんだかわからない旋律を奏でて、この後も常に誰かがどこかのピアノの前にいて寄りかかったり佇んだり、シーンに合わせてフレーズを弾いたり音を出したり、おそらくライブでそのまま出ている音なのだが、そこに被せられているものもあるのか、等は不明。

中央にぽつりとマイクスタンドがあって、そこに向かってAlma Winemiller (Patsy Ferran)がものすごい勢いで自分のこと、自分が置かれた状況のこと、幼馴染のJohn Buchanan Jr. (Matthew Needham)のこと、等々を喋りはじめる。Almaは牧師の娘でまじめで敬虔で男性と付きあったことはなくて、母は精神を病んでいて、若い医師のJohnは自信家で結構ワイルドで、Johnに対する思いはいろいろ募っているのだが踏みだせずにつんのめってて将来のあれやこれやも含めて焦って空回りして、自分でも相当おかしくなっていることは自覚している。 彼女の父とJohnの父はForbes Massonが2役を演じ、彼女の狂ってしまった母と町の忙しい女性も2役、他にも掛けもちで類型的な女性キャラクターなどが出てきて周囲を巡っていて、これらがAlmaの目に映るコミュニティのふつうの人々、なのかも。

ああこれはアメリカ南部のむせかえるような人垣と空気のなかに置かれた典型的なTennessee Williams劇の登場人物 – 女性だなあ、と思っていると後半に入って彼女の様子というか態度挙動がくるりと転回豹変して、周囲も含めてざわざわなんだこれ? になる。 で、おそらくこの箇所の「説明」をするために原作者自身は苦労したのだろうし、その「解釈」を巡るところで彼の他の戯曲と比べたら評価が低くなってしまったのかもしれないなあ、と。

周囲を囲うぼろピアノからてんでに鳴りだす調性のちょっとおかしい音群、その上に置かれた(なんのための?)メトロノーム、そのピアノとおなじようにゆるーく旋回しながらいろんなことを告げたり説教したりして去っていく関係のあるひとないひと、全てがどこかで焚かれた煙のように現れては消えていく、そんななか、Almaのなかでなにかの火花が散って、変異が起こったことについて、そんなに理解するのが難しいとは思えない。

ひとつにはAlma = Patsy Ferranのすばらしい演技(とてつもない集中力)があるのと、へたにJohnやコミュニティの目線でかき混ぜず、女子のラップバトルのような勢いで炸裂する彼女の前のめりの語りにあえてフォーカスしたRebecca Frecknallの演出もある。男の子とのやりとりの果てにちょっとおかしくなっちゃった女の子のドラマ、なんて緩い言いようはAlmaが床に叩きつける椅子で吹っ飛んで、これは彼女の言葉をどこまでも真摯に拾いあげていったRebecca Frecknallの勝利だと思った。 前世紀初のアメリカ南部のお話し、ではなく現代を生きる女の子のお話しになっている。

演劇というより、音楽のライブを聴いているようかのような勢いがあった。映像でもよいからできればもう一回みたい。

他のTennessee Williamsの戯曲もこの観点から再構築してみたら...  って既に誰かがやっていそうだけど。

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