11.23.2010

[theater] The Marriage of Maria Braun

日曜の3:00から、BAMのHarvey Theaterで、ベルリンのSchaubuhne am Lehniner Platz(シャウビューネ劇場)による"The Marriage of Maria Braun"を見ました。 

Next Wave Festivalの出し物のひとつで、原作はRainer Werner Fassbinderの映画、『マリア・ブラウンの結婚』。

同劇場監督のThomas OstermeierはこれまでもNext Waveでイプセンの『人形の家』と”Hedda Gabler”を上演していて、こんどが"...Maria Braun"、とくるとなんとなくわかるかも。 女性をめぐる寛容、不寛容、自立、あれこれ、あれこれ。 

で、この企画に関連して、BAMのシネマテークで、土曜日いちにちだけFassbinderの映画版も上映された。
随分昔に見ただけだったし、彼の映画は何回見てもおもしろいので、見にいったの。

戦時下のドイツ、出兵の前日に式あげて、夫はそのまま戦争行っちゃって行方知らずで、生計たてるためアメリカ兵相手の娼婦になって、そしたら夫が戻ってきたので相手の男をつい殴り殺したら、夫がかわりに刑務所入ってくれて、それを待っている間に会社のえらいひとの愛人になってお金いっぱい稼いで、そのじじいが死んじゃったころに夫が戻ってきて、それで・・・

おっそろしくミクロな、しょうもない個人と個人のじりじりどろどろしたやりとりを重ねつつ、そのむこう側に社会や世相のありようをあぶりだす、その地を這うようなアプローチがファスビンダーのファスビンダーたる由縁であり、この"Maria Braun"がしばしば彼の代表作とされるのも、ドイツの戦中から戦後の激動の時代を走りぬけたひとりの女のドラマとして、それなりの汎化普遍化に成功しているからだとおもうが、へたするとNHKのくそみたいな戦時がんばりましたドラマになりがちなところを、彼の徹底した底意地のわるい(女性嫌い)目線がところどころに刺さってくるので、ああすばらしいと思って見てた。

いま、なんでファスビンダーみたいな映画が出てこないのかしら。 
というのはほんと、ことあるごとに思うの。
映画を見て「元気をもらいました」とか言っているおめでたい善人共にたたきつけてやりたい。

で、そんな彼の映画を舞台化したらいったいどうなるのか。
閉じた場所、閉じた系内での人間同士の相克を描く、という点で演劇的、と言われることも多いけど、そうありながらも、彼の目線、彼のカメラはものすごく執拗に、恣意的に動くし、あと登場人物がはんぱでなく変な、一度見たら脳に貼りついてしまうような特殊なひとが多いので、この辺がどうなるのかなあ、とか。

そうそう、なんといっても映画版にはHanna Schygullaというミューズがいたし、ね。


ここからが舞台版のおはなし。

セットは50年代ふう、モダンなホテルのラウンジのような場所で、ほぼずっと固定。 
ソファにチェアにコーヒーテーブル。
いろんな人たち、いろんな目線、いろんな会話が行き交うこの場所で、スライド投影やハンドカメラによるリアルタイム映像を使いつつ、Maria Braunの周りをいろんな人たちが通り過ぎていく。
音と音楽はすべて遠くから、遠くて鳴っているラジオの音みたいに聞こえてくる。

Maria Braun以外の役柄はすべて、男優4名がかわりばんこに、女装だのなんだのも含めて全て兼務する。
ひとりあたり4~5役はやっていたのではないか。

なるほどね。 ひとりの俳優に複数人格を集約してしまうことで癖のある人たちはそのまま、「変なひと」という衣を纏うことができるわけか。 
俳優さん達は大変そうだったが、実際にはみんなすごく巧くて、この試みはうまくいっていたとおもう。

あとは時間や場所、出来事の移り変わりについても、このセットはきちんと機能していた。
なぜなら、この物語は、彼女と、彼女が交わした「結婚」という契約、その縛り、その一本の鉄線を巡って、その線のつくりだす磁場を中心に進行していくからであり、ホテルという場所もまた、そんなような保証-自由をひとつ屋根の下に統合したような場所、であるからー。

そして最後の場面になると、ホテルから彼女のおうちにセットがぐるーんと変わり、それは夫が帰ってきて、彼と彼女の関係がようやく「夫婦」として「正常化」する、それを指し示しているのでまあそうだろうな、と。

筋と、いくつかの台詞はほぼそのままFassbinderの映画のまま。
髪をセットした彼女が「これってプードルみたいだわ」っていうとこが好きなのだが、それもそのまま。
Karl Oswaldの死の場面が舞台でははっきりと描かれる、くらいか。
映画では彼女の目の届かないところで起こっていたいくつかのイベントが、舞台ではすべてのひとに、すべてが目に見えるかたちで曝される。 そういうちがい。

映画にはなくて舞台で実現できたもの、というとなんだろな、ドイツ近代史、みたいなところからは距離を置いて、割と現代の女性のありよう、ジェンダー論にも通じるようなところにテーマをシフトしてきているところ、かな。(ここは賛否ありそうだが)

ラストの背後に流れるワールドカップの実況中継も、それが今年のやつだったとしても違和感ないような。
(ドイツは負けちゃったけど)

Maria Braunを演じたBrigitte Hobmeierさんはすばらしかったです。
映画版のHanna Schygullaがもっていた魔性の女みたいなとこは(あえて)抑えめに、蒼白く、クールに周囲を蹴散らしていく軽いかんじがまたかっこよくて。

1時間45分、休憩なし。 


BAMのHarvey Theater(すごく古くてぼろいの)も久々でうれしかった。

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