11.20.2023

[film] R.M.N. (2022)

11月15日、水曜日の晩、ユーロスペースで見ました。邦題は『ヨーロッパ新世紀』。
作・監督・制作はルーマニアの、『4ヶ月、3週と2日』(2007)や『エリザのために』(2016)のCristian Mungiu – であることを知って見ようと思った。

字幕は喋られる言語 - ルーマニア語、ハンガリー語、その他の言語 + 意図的に字幕表示しない言語もある - によって3種に色分けされている。

トランシルヴァニアの山間にある多民族地域 - ルーマニア人、ハンガリー人、ドイツ語圏の人々が共存している - の人々の日々の暮らしのなかで、EUの移民政策やBrexitにより揺さぶりをかけられた彼らの他民族、人種に向けられた差別意識がどんな状態にあるのか、向かおうとしているのか。終盤に向けて悲惨な、陰惨な大事件が勃発するようなことはないのだが、その分、日々の不満や鬱憤がどんなふうに蓄積され小競り合いのようなかたちで表出していくのか、手に取るようにわかる。なぜならそれは。

冒頭、ドイツの屠殺場で働くMatthias (Marin Grigore)が作業中に「ジプシー」って罵られたのでそいつをぶん殴って家に戻る。戻ると妻のAna (Macrina Bârlădeanu)は冷たいし、ひとり息子のRudi (Mark Blenyesi)は森でなにか怖いもの – それは熊なのか宿のない移民なのか - を見たらしく、殆ど言葉を発せない状態でぬいぐるみと遊んでいたり(父からすると)女々しいし、自分の父はずっと具合が悪そうだし、多少むかついたからって失業なんかしている場合ではない。

Matthiasは地元でパン屋を経営する洗練されたCsilla (Judith State)とずっと不倫関係にあって、彼女のパン屋の工場はずっと人手不足で求人しても地元の人たちは賃金が安すぎる、と来てくれない、ので時給額を隠して残業代は倍、という求人広告を出して、ようやくエージェント経由でスリランカ人ふたりがやってくるのだが、片言の英語しか通じない彼らに対する地元民の目は冷たく、カトリックなので教会の礼拝に参加しようとしても追い払われて、ムスリムって決めつけられたり、やがて彼らがこねたパンの不買運動~彼らの住居からの締めだしにまで発展し、神父や首長にまで話がいってタウンミーティングの開催、となる。

そのうちMatthiasの父が動けなくなり、病院でMRI検査を受けると彼の脳断面の画像がMatthiasの携帯に送られてくるのだが、それを見ても影があったり膠着していそうな箇所はなんとなくわかるものの、どこがどうだからこれが悪い/悪くない、についてはわからないままもやもや。

集会所のホールで住民たちを集めて開催されたタウンミーティングでは、自分たちの見解が多勢であると認識している排斥派が人種差別的な被害妄想を好き勝手に喚き散らして吼えまくる場となり、異義を唱えるのはCsillaや熊の個体数調査に訪れているフランス人くらい、17分間、固定のカメラがその光景をノンストップで映しだして、それは確かに異様すぎて釘付けにされてしまう。 何故釘付けにされるのかというと、明らかに差別と偏見に基づいたヘイトな物言いが支配的になっているなか、自分がそこにいた時になにができるのか、できないのではないか、という無力感に囚われてしまうからで、これが突きつけてくるものはどんなホラーよりも否応なしに恐ろしい。だって戦争や他民族の虐殺はこんなふうに起こるのだ、って目に見えてわかるし、わかっているのだし。

ここのこれって特殊事情ではないのか? なにをもってこの土地のこれを「特殊」って排除できるのか不明なのと、これと大差ない物言いを今やSNSなどでいくらでも(世界中の至る所で)見ることができるし。

震えていると、Matthiasの父が自殺した、って報が入ってみんなでそちらに向かうと…  MRIの画像ではどこが悪いのやら、程度に見えたのだがそういうのとは関係なく本人には先を覆ってしまう影としてはっきりわかっていた、ということなのか。ここにもっていくまでの淡々としたペースは悪くなくて、そして最後の、あの熊(s)はなんなのか。

タイトルのR.M.N.はルーマニア語でMRIを意味する“Rezonanță Magnetică Nucleară”の略なのだそう。スライスした断面から何かの兆候を見ようとすること、そこからどんな(治療)行動を起こせるのか起こせないのか、そうなった時にはもう既に遅いのか、など。

ここで描かれたのって、日本だとクルド人や韓国人への差別があるし、欧米でもふつうにいくらでもあるし、それらは戦っていかなければいけないあれとしてあるのだが、いまはガザのが本当にきつくてやりきれなくて、ふつうにあの土地で暮らしていた人たちをあんなふうに根こそぎなんて。どうしたら止めることができるのか、ものすごい無力感とともにもう…

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