11.21.2023

[film] あずきと雨 (2023)

11月16日、木曜日の晩、ポレポレ東中野で見ました。上映後にトーク付き。
軽くて暗くなさそうで短かった(70分)ので。 作・監督はこれが初長編作品となる隈元博樹。

不動産会社に勤めるユキ(加藤紗希)のアパートには元恋人のノブ(嶺豪一)が別れたのにまだ同居していて、彼がなにをしているのかというと、中国の干ばつであずきの輸入量が減って生産中止になってしまうというあずきアイスの販売継続を求めて製造メーカーに抗議文を書いて送り続けている、と。なので彼らの冷蔵庫の冷凍コーナーにはあずきアイスがぱんぱんに詰まっていて、ユキが新しい彼ができそう – 結局できなかったのだが - だから出て行ってほしい、とノブに告げると「雨が降ったら出ていく」って返す。

いまの世の中で一緒に暮らしているカップル(元であろうとなかろうと)の「ふつう」 - 特に暴力的ななにかがあったりSM的な歓びを求めていたり、過去によほどの何かとか宗教的な絆とかがあったりしなければ – のありようからすれば、ユキはノブに対してふざけんじゃねえよ、とっとと出ていけごくつぶし! ってなると思うのだが、この映画の時間と空間のなかでは、ノブは抗議文を書いてごろごろして(いいなー)、あずきアイスを配達に来たひとにアイスをあげて話をしたりしている。このへんのことが、部屋の明るさと、なんも、一ミリも考えていなさそうな(←よい意味で)飼われている動物のように穏やかな俳優 嶺豪一の佇まいによってありかも、になってしまう不思議さと見事さ。

ユキが不動産屋で仕事をしていると、貼ってある物件情報を真剣に見ている少女がいて、部屋を見せに行った時の様子から彼女 - リコ(秋枝一愛)は家出してきたらしいことがわかるのだが、行くあてもなさそうなので、とりあえず家に連れて帰る。彼女の理由も事情も聞かない、掘らない。そしてリコもあずきアイスを食べる。

ノブはトイレットペーパーを買いに出た帰りに野球をやっている子供たちの間に入ってバットを握ったら止まらなくなり日が暮れるまでバットを振り続けるもののぜんぜん当たらずのへたくそで、子供たちは逃げるように帰っていったり。翌日、明るい空に雨が降ったらあずきアイスだけ残して彼は消えてしまうの。スナフキンか。

ユキひとりのラストはすばらしい像として残るのだが、ここも含めて主人公たちの行動や挙動に「なんで?」という問いが発せられることは一切ない。なんでユキとノブは一緒にいるのか? なんでリコは家出したのか? なんであずきアイスなのか? なんで雨が降ったら出ていくのか? なんでノブは誰に何も告げずに消えちゃったのか? 最近のミニシアター系でもシネコンでも邦画の予告では必ずと言っていいほど登場人物たちが「なんで?」「どうして?」「なぜだぁー?」って泣き崩れたり天や地に向かって叫んだりするのばっかり(数えたことないけど相当な数だと思うよ)なので、ここはとても喜ばしく清々しい。ほんとに大きなお世話系ばっかしの世の中においては。

かわりにあずきアイスはなにか? というのが来て、途中から考えるのが止まらなくなる。
あずきの柔らかくふっくらした丸い甘みを活かすのに果たしてあずきアイスは正しい解と呼べるのか? やはりぜんざいや白玉あずきではないのか? 冷やして戴くのであればせめて宇治金時ではないのか? それをあんなふうにカチカチに冷やし、しかも歯が折れそうなくらいに固いバーに成形してしまうのはあずきのポテンシャルを正しく引き出しているといえるのか? などなど。そして、なによりも困ってしまうのはそんな疑義と懸念にまみれたあずきアイスを悪くないって夜中につい齧ってしまうことなの。

ノブがあずきアイスのどこをそんなに愛してしまったのかは知る由もないし、知りたくもないのだが、彼のそんな条理を欠いた(いいかげんな)愛のありようがふたりの生活を貫く糸ならぬバーとしてあったことは確かな気がして、ここに関しては答えなんてどこにもない、誰も持っていない待っていないことを承知のうえで、それでよいのでは、と。

そして、あずきアイスは溶けて、降った雨もあがる。雨が来たので干ばつも終わるかもしれない。そんなふうにして新しい繋がり – というほどのものでは – が後ろ頭から生まれたり。

シンプルだけど、すごくいろんなことを考えさせてくれる映画で、とてもよかった。

上映後のトークは、松本で「恋愛関係を持たない」「呼びようのない暮らし」をしている二人のお話を聞けて、いろいろ考える。だって世の中恋愛関係じゃない関係のほうが死ぬほど多くて大部分なのになんでそういうの(あと家族愛もか)ばっかしがテーマになって、共にある理由づけばかりを求められてしまうのか、それってよいことなのか、とか。

帰りにあずきアイスを求めてコンビニに寄ったのだが、パッケージがなんか違う気がして踏み込めなかった。

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