11.10.2022

[theatre] National Theatre Live: Straight Line Crazy (2022)

10月26日、水曜日の晩、Tohoシネマズ日本橋で見ました。NTLは上映があると無条件で見るかんじになってきたような。

1910年ころからNY州と市の都市計画に携わって今の州と市のランドスケープとルックス – 特に幹線道路や公園の周辺 - を決めて真っ直ぐな線を引いたRobert Moses (1888 - 1981)をRalph Fiennesが演じる。

Robert Caroのピューリッツァー賞を受賞した評伝”The Power Broker: Robert Moses and the Fall of New York” (1974)を元に(とは明記されていないらしいが)David Hareが脚本を書いてNicholas Hytnerが演出して、今年の3月にロンドンのBridge Theatreでプレビュー/上演されたもの。その後、Off-Broadwayの方にも行っている。

主演はRalph Fiennesなので、この近代史上の大物の巻き起こすドラマをすばらしい勢いと貫禄で演じていて、彼の一人芝居でも十分くらいなのだが、彼の事務所の部下として数名 - Mariah Heller (Alisha Bailey)やFinnuala Connell (Siobhán Cullen) - と描かれるそれぞれの時代で彼の周囲にいた支援者、敵対者も登場する。

全2幕もので、一幕目は1926年、当時のNY州知事だったAl Smith (Danny Webb)を巻きこんでロングアイランドの公園整備とそこを抜ける幹線道路計画を実現しようとする話。お金持ちの私有地が沢山あったロングアイランドをStraight Lineで突っ切ろうとする計画に市長は予想される(地主のお金持ち有権者からの)反発を見越して難色を示すのだが、それを強引な自論でもって押し通そうとするMoses – これはやがて実現される。でもそのなかでなんで鉄道じゃだめなの? どうしても自動車が通るexpresswayがいいってなんで? という疑問も湧いたり。

二幕目は1955年、ワシントンスクエアパークの真ん中を突っ切ろうとする道路整備の計画が公園を愛する地域住民の反対にあって潰される話で、反対派のJane Jacobs (Helen Schlesinger)とのやりとりがセンターにきて、「公共」の考え方が戦前と戦後で大きく変わってきているのではないかとか、歳を重ねてより頑迷になり、やや疲れているようだけど決してそれを認めようとしない困った老人、になってしまっているMosesの姿が印象深い。

どちらの話も、Mosesの当時のヴィジョンやその妥当性や先見性について云々する、というよりは時の権力と結託して強引かつ狡猾に自分の計画を進めていこうとする政治のパワーゲームの勝ち負けが中心で、彼がNYになにをしたのか – そのよかったことも悪かったことも - がそれなりに明らかになってきている現在では、この切り口でよかったのかも。(元になったRobert Caroの本がそういうトーンらしいので) 例えば東京の街がクズみたいなパワポだの子供騙しな「完成予想図」だのでゼネコンを儲けさせるためだけに木々を切り倒して人々を追いやって日々醜く変わっていくそのやり口なども、この辺を起点として考えることもできるのだろうなー、とか。

そして強い権力を握るひとがそれを行使する際に見えたりやったりしてしまう差別的な目線(なにのどこを優先するかの結果として)もはっきりと出て、この辺が都市における貧困とか、最近だと排除アートのあれこれに繋がっていくのだろう。そういう作品ではないことはわかっているけど、Mosesがこれらの都市計画を通して最終的になにを実現しようとしていたのかが最初のほうではっきり示されていたらもう少し全体の見晴らしもよくなったのではないか。

そうであっても、二幕目の反対派住民との対話のなかで自分で地雷を踏んでどうしようもなくなって捩れて疲弊して地団駄を踏むMoses = Ralph Fiennesの演技ときたらすさまじい。

あとは改めて、MosesがNYの州とか市にやったこと – JFKから市内に入るexpresswayもトライボロ・ブリッジもずっと(30年以上? もっと?)ずるずる渋滞が止まらないまま(車酔い必須)だし、でもリンカーンセンターもジョーンズビーチもシェイ・スタジアムも音楽のライブにはなくてはならないvenueなのだし、でもワシントンスクエアパークからSOHOの辺りを道路が分断しなかったのはよかった、でよいのか? それがやがてあの辺の地価の高騰を招いて結果的に無味乾燥なブランド店だらけにしてしまったのでは? などについて考えることもできる。

あと、Mosesのやったことは映画のなかのNYのランドスケープやその変遷にも関わっているはずで、”West Side Story”にもでてきた穴掘り~強制移住なんかはもろだろうし、他にもありそう。(戦後のrom-comによく出てくるコニーアイランドへのデートは電車を使うのが多いので違うのかしら)

NYの景色に対する思いもそこから始まったNYの暮らしに対する思いも単純なものではなくて、そういうの(の一部)が100年くらいにこの男の狂ったような線引きによってもたらされた.. ってなんかおもしろい。他の都市にはないよね。 あと、ここ数年のマンハッタンのスカイラインの変貌はなんとかしてほしい。ぜーんぜん美しくないとおもうー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。