11.28.2022

[film] Where the Crawdads Sing (2022)

11月19日、土曜日の午後、Tohoシネマズ新宿で見ました。
邦題は『ザリガニの鳴くところ』。Delia Owensによる同名ベストセラー小説 (2019)は読んでいない。

製作にはブッククラブで原作本を紹介したReese Witherspoonの名前があり、脚色には”Beasts of the Southern Wild” (2012)のLucy Alibar、書き下ろしの主題歌をTaylor Swiftが歌っている。

1969年、ノースカロライナのBarkley Coveという湿地帯のある小さな町で、Chase Anderson (Harris Dickinson)という地元の少し金持ちであまり評判のよくなかった若者が櫓の上から落ちて死んでいるのが発見される。争った形跡も襲われた痕跡もなく第三者の怪しい指紋などもなく、酔っぱらって落ちた可能性も否定できないのに、警察は昔からここにいて世捨て人のような暮らしをして地元民から”Marsh Girl” - 沼女 - って呼ばれている24歳のKya (Daisy Edgar-Jones)を容疑者として拘束して裁判にかける。

映画は、Kyaを子供の頃から見て知っている弁護士のTom (David Strathairn)が弁護にたつ裁判の経過を追いながら、並行してKyaの幼年期からここに来るまでのことを辿っていく。

アル中でDVの父(Garrett Dillahunt)に愛想をつかして母(Ahna O’Reilly)が家を出ていって、それを追うようにふたりいた兄もいなくなり、幼いKya (Jojo Regina) はひとりで父の下で面倒を見なければならなくなり、学校も虐められるので行かなくなって、たまに助けてくれるのは買い物に行く先の雑貨屋のJumpin’ (Sterling Macer, Jr)とMabel (Michael Hyatt)の夫婦くらい、そのうち父親もどこかに消えてなくなり、なのでたった一人で、読み書きもできないまま大きくなる。

少し大きくなったKyaに近所のやさしそうな青年Tate (Taylor John Smith)が寄ってきて読み書きとかいろいろ教えてくれるようになり、初めての恋につながるのだが、進学で町を出ることになった彼は約束していた独立記念日になっても戻ってこなくて、Kyaの初めての恋は消えて、でも彼に貰った出版社のリストにずっと描いてきた動植物のスケッチを送ったら出版しないか、と言ってきたのでその契約金で生活のあてはできる。

そして続いて現れたのがChaseで、初めはやさしいふうだったのにじつは性格わるいし実は婚約してるしで、そこに突然Tateが戻ってきた - ばかばか、と思った頃にこの事件が。

ストーリーの軸は映画のほとんどを占めるChaseの死の真相を捌いて掘っていく裁判でもなく、KyaとTateのなんとなく“The Notebook” (2004)を思わせる - 水にはまってしがみつくようにキスをしているのを見るとつい - 「純愛」にあるのでもなく、蒸発した母がやばくなったら「ザリガニの鳴くところ」に逃げなさいとKyaに教えていたその場所 – どこと明示はされないが湿地帯の奥深くにあるであろう穴蔵のような隠れ家のような場所に向かっていくように思われた。

ただ映画で描かれる湿地帯 - Kyaが生きることのできるザリガニの鳴くところが、BBCのドキュメンタリーに出てきそうなくらい絵に描いた楽園のようにきれいに描かれているのと、あとはMarsh Girlと呼ばれたKyaは、父親がいなくなった後、ひとりでどうやって生活して成長できたのだろう、って。人と関わらず読み書きができない状態で「野生の少年」にもならず、ああいう町であれば棄てられた子はふつう保護観察下におかれると思うのだがそれもなく、スナフキンみたいなまま20歳過ぎまで.. ?

そういうところも含めて、この作品はあの土地と少女のありようを巡る軽いファンタジーのように見るのが正しいのでは、と思うのだがやはり原作を読んだほうがよいのかしら。全体としてキャラクターの善悪があまりにクリアにわかりやすく分かれているのがなー。沼のどろどろがいいとは言わんけど、このテーマと領域ならテネシー・ウィリアムズ的ななにかとか、その端っこくらいは感じさせてほしかったかも。

そんななか、最後に聞こえてくるTaylor Swiftによる主題歌 - ”Carolina”が沼にほんとうに足を踏み入れてしまったかのような生生しさで迫ってくる。何度も何度も繰り返される”And you didn't see me here - They never did see me here”  というフレーズの強いこと。

あとはKyaを演じたDaisy Edgar-Jonesもすばらしかった。TVシリーズの”Normal People” (2020)では、今回とは逆のお金持ちの令嬢 - でもやはり親とは切り離されていて、相手役の男子の方が貧しい母子家庭 - を演じていたが、一見弱そうに見えて実はひとりであることを貫いてびくともしない強さとしなやかさを、なめてかかってくる連中にさらりとかましてみせるかっこよさときたら。

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