11.01.2022

[film] Bros (2022)

10月21日、金曜日の晩、米国のYouTubeで見ました。

Judd Apatowのプロダクションで、監督はNicholas Stoller、脚本はNicholas Stollerと主演のBilly Eichnerの共同、New Yorkに暮らす白人ゲイ男性の王道rom-com、ということででは王道とはなんぞや? というところも含めて必見なの。

40歳で独身New YorkerのBobby (Billy Eichner)は、クィアヒストリーをテーマにしたポッドキャストのホストをしてて、LGBTQコミュニティで賞を貰ったりして、そこから国立のLGBTQ歴史博物館の設立メンバーになって資金獲得などで日々走り回るようになる。

Bobbyは自分がNYの白人のゲイとして置かれている状況についてずっと自覚的でシニカルでひねくれてて、”Queer Eye for the Straight Guy”みたいな人気者になれるわけでもないし、運命の人や糸が現れたり垂れてくるわけでもないことはわかっていて、だから十分に毒舌にも辛辣にもなれて、今の自分の人気はそれ故のものであることもわかっているし、周囲もそれを受け容れてくれているようなので、それでいいや、っていう自意識で武装して毎日を過ごしている。

でもそんな彼がクラブでAaron (Luke Macfarlane)と出会って、自分と同じように無口で運命とか結婚とかふつーの幸せをあまり信じていない透明度の彼だったので、デートしてセックスしてそれぞれの友達や家族と会ったり夢を語ったり – Aaronの夢はショコラティエになること - していくうちにだんだん互いの思いが予期しなかった方に変わっていって、こんなはずじゃなかったかも - これじゃふつうのrom-comの関係みたいじゃんか、ってなって、そうかそういうのが嫌なら別れようか、ってあっさりいったん別れて – この流れ自体が既にじゅうぶんrom-comなのだが - 要するにそういう展開で、従来あった“When Harry Met Sally”(1989) みたいなドラマを中年のシニカルなゲイふたりの上に展開させるとこんなふうになるのでは、と。

もういっこ、併行して動いていくLGBTQ歴史博物館の設立の件については、ゲイだけじゃないレズビアンもトランスもクィアもいろんな人たちが関わっていて、彼らが受けてきた偏見や迫害や差別はゲイのそれとは温度も厚みも違って、Bobbyひとりで抱えて決めきれるものではない、という難しさが見えてきて、このプロジェクトの進展もふたりの関係に微妙に影響を及ぼしたりする。

Judd Apatowのコメディって、”The 40-Year-Old Virgin” (2005) -童貞-にしても、”Knocked Up” (2007)-妊娠- にしても、”This Is 40” (2012)-ミドルエイジ危機- にしても、一見ふつうに面白おかしく暮らしていた人々が、想定していなかった危機とかイベントにぶつかってあたふたパニックしてより狂って自爆していく、そういうドラマだったと思うのだが、今回のは起点となる登場人物たちの意識がすでに「ふつうの」人たちからずれている(と本人たちは思っているし思わされてきた)ので、これまでのふつうの市民が大騒ぎを経て一回転してふつうに復帰する、のとは別の、ふつうじゃないところに立っていた市民が少し騒いで、でも一回転してみたら割とふつうだった? あれ? のようなかんじなのかも。でも最後はなんだかんだやっぱり愛じゃろ、みたいなところに気づきがあって落ちる – このあたりがつまんない人にはつまんないのかも。

でも今回のについては、一見着地点(ってなに?というとこも含めて) が難しそうなゲイの人々をセンターに置いたときにどこがどんなふうに捩れて拗れるのか、がシリアスでなく淡々と描かれていて、それが結果的にrom-comのメタのようになっているところがおもしろいのではないか。ただ、この形式がこれまでに作られたり語られたりしてきたいろんなゲイの恋物語や映画たちとどう違うのか、というとちょっと微妙かも(主人公がずっとフロントに立っているだけで、そんなに違っていないのでは?)。

というのと、このメタな恋物語を語る基準/補助線のような役割を担うはずだった(たぶん)LGBTQ博物館の件も、メンバーの動きや言動がちょっと戯画化・単純化されすぎているところが少し.. ここも加えて転がしていったら収拾がつかなくなる、という判断だったのかも知れないけど、でもこれはNYのお話しでもあるのだからさあー って。

たぶんゲイ・レズビアン映画祭のようなところで数回上映されて終わり、になってしまうのだろうが、できればちゃんとした形で上映されてほしいなー。

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