11.21.2022

[film] Don't Worry Darling (2022)

11月16日、水曜日の晩、ヒューマントラストシネマの有楽町で見ました。

監督はデビュー作の”Booksmart” (2019)がすばらしかったOlivia Wilde。脚本も同作を書いていたKatie Silberman。

いつの時代のことかは明記されないが、カリフォルニアの砂漠の真ん中だか端っこだかに会社の名前 – Victoryを冠した計画された住宅地があって、ミッドセンチュリーモダンで揃えられた小綺麗な家々が並び、男たちは朝になるとあの時代のカラーの車にそれぞれ乗りこんでみんなで隊列をなして山のほうのVictory社に吸いこまれていく。

家の中に入ってみれば朝食はコーヒーとトーストとベーコン、出ていくのは夫たち、残された妻たちは掃除に洗濯に買い物にバレエのレッスン、などなど。毎日/毎週おなじメニューと行動様式で済んでしまうし、衣服は普段使いも含めてあら素敵!って言いあえるやつだし、衣食住で不満があったり困っていそうなものはないし、他のことをやったり考えたりする必要ある?

若いAlice (Florence Pugh)とJack (Harry Styles)の夫婦はそのなかの一組でまだ十分にあつあつで、隣組のようなご近所のAliceの友人にはBunny (Olivia Wilde)とMargaret (KiKi Layne)がいて、夫たちも妻たちと同じように会社内では繋がっているに決まっているし、夜はどこか誰かの家のラウンジで飲んだり踊ったり喋ったり楽しそう。終電とか気にしなくていいしな。

会社の創業者でCEOのFrank (Chris Pine)は圧倒的なカリスマ性でもって社員の魂を掌握して君臨して、社員もVictory Projectに参加してFrankの事業に貢献できることを誇りに思っていて忠誠を誓ってがんばるし、Frankの妻のShelley (Gemma Chan)もそれを支えるべく、妻たちの方への声掛けや顔出しも忘れない。

まずはここまでの設定に乗れるかどうか。気候はずっと温暖で片頭痛もなさそうで、ああいう家具とか住居デザインが好きで、家には本とレコードが十分にあって、近所づきあいやパーティー沢山も苦にならなくて、新しいものとか冒険とかを激しく求めなければ、いいんじゃないの? くらい? (まあむり)

でもAliceはどこがどう、とは言えないけど、日々の充足感とは別になんかおかしくないかここ? って感じるようになって頻繁にBusby Berkeleyスタイルの輪になって踊る女性たちの幻影が目の裏側に見えたり、隣人のMargaretの言動が少しづつおかしくなっていること - 更にそれらを友人たちがあんま気にしないこととか、やがてMargaretが首を切って屋根から落ちたり、煙をはく軽飛行機が山の向こうに消えたのにみんな知らんぷりしたりしているので、自分で山を登って追いかけて、そこのてっぺんにあった建物をのぞいてみると..

パーティとかでAliceが顔色を変えておかしな言動をしたり挙動をしてもFrankやShelleyはそんなに気にしているふうには見えず、むしろJackを昇進させてくれたりして、Aliceからすればいやあんたたち絶対へんだから、って。 そこから先は“Midsommar” (2019)ふうのホラー - 明らかにみんなおかしい - でも具体的にどこ、とか理由とかはまったくわからない – みんなだいじょうぶだよって笑う - 出たいけど出られない抜けられない – あれもおかしいこれもおかしいに絡めとられていく。そうやっていると赤いユニフォームのお掃除係みたいな連中が..

or みんな変なのは自分たちでもわかっているのだと。けど、それを言って変わったり変えられたりするのもまた面倒だし、自分に直接の危害や困難が降ってこない限りは見て見ぬふりをしておいた方が無難だ、少なくとも食うに困らない生活は保障されているし妻も満足しているのであれば、ということ? - それってシンプルに今の我々じゃん? とか。

あの家々や経営幹部が、住民をコントロールしているように見えるのが怖いのか、なにも変わらず/変えようとしないまま平々凡々と時間が経っていくのが怖いのか、そこから抜けだすパスがないことが怖いのか、これらぜんぶの目的やゴールが一切見えないことが怖いのか、こういうのを含めてわからないことがわからないのが怖い、と言えばじゃあ抗うつ薬とか睡眠薬とか、そっちにしかいかないのは冗談じゃない、ってすべてをぶっちぎって走りだすAlice – すばらしい走りっぷり - を見るしかない。

この辺、あえて言えば”Booksmart”が定型にまみれた学園生活の最後に破壊神が降り立ってハリケーンを巻き起こそうとした、その漫画を描いたのと同じように、すべてがコントロールされてのしかかってくる家とか企業の理念とかのグロい全方位の恐怖を描こうとした、のかもしれない。でも、できればもうちょっとだけ、Aliceの瞳に刻まれたのがなんだったのか、彼女の顔はなんであんなふうに歪んだのか、を知りたかったかも。

山の上になんかあるしマッシュポテトも出てくるし、”Nope”みたいなところに行くのかとも思った。けど、お話しはあくまでも”Don't Worry Darling”ってAliceに囁き続けるどこかからの声をとらえようとする。

Alice - Florence Pughの相手役のHarry Stylesがなかなかよくて、線は細いけどがんばることだけが取り柄みたいな生真面目な役柄を巧く演じていた。Frankに言われるままに猿回しの猿みたいに無表情でくるくる回るところとか。

そしてChris Pineの能面の気持ちわるさ。この人”Star Trek”とか”Wonder Woman”の熱いキャラよりも実はこっちの方なのではないか。Matt Damonなんかの数十倍気持ち悪いことができるのではないか(ほめてる)、とか。

あと、もっともっとドリーミィな音楽でぱんぱんに塗り固めてくれてよかったのに。

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