11.17.2020

[film] The Woman Who Ran (2020)

9日、月曜日の晩、London Korean Film Festival – ここのとこFestivalばっかだ - の上映作品のなかにホン・サンスの新作があったので見た。原題は”도망친 여자”、邦題は『逃げた女』。これ、『失われた時を求めて』の『逃げ去る女』を思い浮かべたのだがこれの英語題は”The Fugitive”だった。今年のベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞して、こないだのNYFFでも上映されていた。

ニワトリがいる郊外(?)に暮らすヨンスン(Young-hwa Seo)のアパートにカムヒ(Min-hee Kim)が肉などを持って訪ねてきて、料理担当のもうひとりも一緒に焼肉をしながらこういう暮らしもいいよねーとかいろんなことを話していく。カムヒは結婚して5年間夫とはずっと一緒で、彼は愛する人とはずっと一緒にいなければいけない、って強く言う人なので今回初めて別々に行動するのだとか、向かいの住人がそこにいるノラ猫に餌をやらないようにやんわり言いにきたり(話の噛み合わないことときたらすばらしい)、軒先の監視カメラに映る夜中に家の外に現れてタバコを吸う女性 - 粗暴な夫から逃げているらしい - のこととか。

続いてスヨン(Seon-mi Song)がひとりで暮らすアパートをカムヒが訪ねて、スヨンはこの辺にはアーティストが沢山いてバーに行くといろんな人と出会えておもしろいの、というのだが、そうやって出会ったらしい若い詩人男が突然玄関のところに現れて、スヨンはあんたストーカーかよ、って撃退して、一度あいつと酔っ払って寝ちゃったのねあーあ、とかいう。

それから映画館で映画を見ていたカムヒは、そこで働くウジン(Sae-Byuk Kim)と偶然会って、ウジンはカムヒに過去のことを謝罪して、その謝罪元と思われる男 - カムヒのexらしい – とも偶然会ってぎこちなく会話して、なんとなくもやもやを抱えたままカムヒは映画館の椅子に身を沈める。

これまでのホン・サンス映画は酒場とかで出会った男女がやあやあって近づいてくっついて離れて再会して、とか酒を飲んでいくうちに突然あららってぐんにゃりしたり、といった男女間のドラマが多かった気がするが、今度のは既に知り合いの女性同士の会話でほぼ成り立っていて、出てくる男子はカムヒの訪問先で背中を見せる2名と、最後にカムヒと会話する彼女のex くらいで男性の影は薄い(あと、あの猫は♂だと思う)。 薄いのだが、カムヒが3回言い訳のように使う「夫婦は離れていてはぜったいダメ」という夫の存在とこのタイトルが、カムヒのこの映画で描かれる行動の起点にはなっているようなので、やはり男の影は見え隠れして、その影たちの関係も見えたりして、でもそうやって会話や出来事の中に現れる男たちはなんかうざくて、女性たちはそんなのはもういい(いい家は見つかった - いい男はあんましいない)、と思っているような。

カムヒが訪れる先の女性たちの住居は何度も景色とか環境がとっても素敵、とカムヒから言われて住んでいる彼女たちはそうなのいいでしょー、と返すのだがカムヒの住居のことはどうも触れられない、カムヒが語るのは例の旦那のことだけで、つまりたぶん。

ここのとこ、MUBIでずっとやっているロメールの「喜劇と格言劇」シリーズを見ているので、よく言われるロメールとホン・サンスについても改めて考えてみたのだが、今作に関していうと、出てくる男が半端でろくでもないのばっかり、というとこは似ているが、女性たちが恋愛に向かってGo! になっていない – どちらかというと距離を置いて眺める態度にある、というとこは違うかも。でも、逃げても逃げても追ってくる過去(の自分)とか、通りを歩いて建物に入っていくシンプルな動作がストーリーのリズムを作っている、というあたりは似ているかも。

ねちっこい男たちがいなくなった分、全体はとても静かで削ぎ落されたかんじがある。窓から切り取られた風景を眺める、そんな彼女たちの視点で過去と現在、彼女たちが去ったり捨てたりしたもの、彼女たちが逃げようとしているものが整理されていて、その点でラストにカムヒが映画館に入ってスクリーンを見つめるのはなんかわかるの。

でもやっぱり、あの猫がぜんぶ持っていっちゃったかんじがー。


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