11.03.2020

[film] Le beau mariage (1982)

ああもう11月なんだわ。10月20日、火曜日の晩、MUBIで見ました。
英語題は “A Good Marriage” 、邦題は『美しき結婚』。Éric Rohmerの喜劇と箴言シリーズの2作目。

最初にラ・フォンテーヌの寓話『乳しぼりの女と牛乳壺』から“Quel esprit ne bat la campagne ? qui ne fait château en Espagne ?” – 「取り留めもない空想にふけったり、支離滅裂なことを言ったりしない人がいるだろうか? 空中楼閣を築くような実現不可能なことを計画しない人がいるだろうか?」 っていうのが出る。

ル・マンで美術史を勉強しながらアンチーク屋でバイトをしているSabine (Beatrice Romand)がいて、妻子ある画家と付きあっているのだが、もうこんなのはやめだ! あたしは結婚するんだ! って宣言して彼との関係を断って、友人のClarisse (Arielle Dombasle)のところに行ってそうします、ってのをぶちあげると彼女はふんふん、て聞いてあんたにひとりよさそうなのがいるかも、って披露宴パーティで従兄で弁護士のEdmond (Andre Dussollier – 若い.. )を紹介してくれる。

会った時点ではふーん、まあまあじゃん、くらいを装っているのだがSabineの内部ではしっかりスイッチが入ってしまったらしく妄想が暁に向かって爆走して結婚に向けたシナリオと理想の夫婦像みたいのが彼女とEdmondを中心に雲のように形成されて誰にも止めることができなくなってしまう。こんなの誰に止めることができようか。自由だし。

こうしてふたりでレストランで食事して、彼が探していると言ったアンチークを融通してあげて – バイト雇い主から勝手なことするなって怒られて喧嘩して捨て台詞残してバイトを辞めるはめに – Sabineの誕生日に彼を自宅に招いて母親と妹を紹介して、それぞれの局面で若干の失望や躓きや涙はあって当初描いていたシナリオとか作戦をちょっとずつ微調整しつつそれでもなんとしてもEdmondと結婚するんだ自分ならそれができるなぜならそれは自分だからだ、って。でもあまりにもEdmondの反応が緩いのでパリにある彼の事務所に突撃すると ..

前作の『飛行士の妻』 (1981)ではやはり冒頭に妻子ある男性との交際が壊れそうになり、そこを起点にその女性を見ていた主人公(♂)が推理妄想を利かせて走り回る話で、今作では主人公が女性になって彼女の(推理や希望というより)確信が空想上のゴール「美しき結婚」に向けて暴走していく様を描く。どちらの主人公も止まらないし止められない、どうぞ存分お好きに、というあたりは同じかも。

結婚て関係のいち形態にすぎないので、そもそも「よい」も「わるい」もなくて、それをそう呼びうるのは非当事者とか親戚のおじさんおばさんとかに他ならないのだが、だからこそそれはこんなにもおもしろい、おもしろいと言いうるなにかを呼びこむことができる。でもなんでそれがそうなっちゃうのかは彼女には説明できないの。結婚してないから。そして結婚してからも、それは大きなお世話じゃ、って言われてしまうの。

今の若者たちからすれば、なんで結婚にそんなに拘るのか、それがなんで「美しき」になりうるのかたぶんよくわからなくて、自分にもあまりよくわからないのだが、でも80年代初には結婚がそういうゴールとして設定しうる恥ずかしくないなにかであることを確信している人達がそこらにいたことは確かだった。だからそこに向かって一直線のSabineを嗤うのってあまり適切なこととは思えなくて - これってrom-comでは普通の基本の黄金の態度だし - むしろそれをどこまでどう見せるのか、この物語全体が「喜劇」として成立している意味とかおかしみとかについて考えてみること。冒頭とエンディングに出てくる列車のなかのあの男はこれからどう動くのか..  とか。いくらでも膨らんで広がっていく可能性とか豊かさとか。

Sabineの妹役で『友だちの恋人』 (1987)のSophie Renoirが出てくる。そうか姉を見ていたからか、とか。

ぴこぽこポータブル電子音楽は『レネットとミラベル 四つの冒険』(1987) のRonan Girre。


4年前のことを思い出して今からもうどんよりしている。あの日の全身から力が抜けていく虚脱感と恐怖感。あれ以来メディアも一切信用できなくなった。「あれ」がまたやってくる..

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