9.23.2020

[film] The Painted Bird (2019)

 13日、日曜日の昼、CurzonのSOHO - 映画館で見ました。ストリーミングでも見ることができるのだがこういう怖いのを3時間近く集中して見続けられるかどうか自信がなかったので。

ポーランドのJerzy Kosińskiの65年の同名小説をチェコのVáclav Marhoulが脚色して監督したチェコ映画。Kosiński自身が生前は映画化を拒んでいたこと、最初は自身の幼少期の経験をもとにしていたと言っていたのが後からそうではなかった事実が明らかになったり、昨年のヴェネツィア映画祭では退席する人達が続出とか、いろいろある。邦題は『異端の鳥』で、日本でもまもなく公開予定。英国では18禁での公開。

第二次大戦下のポーランドの周囲に人がいない原野にユダヤ人の少年(Petr Kotlár)がおばあさんとふたりで暮らしている - 両親はナチスに連れ去られたらしい - のだが、起きたらおばあさんが亡くなっていて家も燃えちゃったのでひとり外を歩いていると捕まえられて、祈祷師みたいなおばあさんからこの子は吸血鬼じゃ、とか言われて彼女のとこで奴隷奉公をさせられて、そのうち伝染病にかかったらしく首から下を土に埋められて棄てられ、カラスに食べられそうになっているところを別のひとに掘り出されて、また別の家族に拾われて..  こんなふうに家畜みたいに名前も呼ばれぬまま、生かしておいてやるからその替わりに..  と大人たちの間で玉突き散々やりたい放題されて棄てられて、が延々繰り返される地獄巡りの日々。彼を飼う主が変わるたび、その主の名前がチャプターのように表示される。

水車で粉ひきをやっているDV親父にUdo Kier – すごくおっかない - とか、少し情けをくれるナチスの兵士にStellan Skarsgårdとか、助けてくれる司祭にHarvey Keitelとか、そこから彼を引き取って性的虐待をするJulian Sandsとか、ロシアの狙撃兵にBarry Pepperとか、有名な俳優さんもいっぱい出てきて少年の前を通り過ぎていく。勿論彼らもそれなりの運命になぎ倒されていくのだが、少年の目から見れば地震とか大嵐のような災厄でしかないし、そうして目の光がどんどん失われていって。

“The Painted Bird”っていうのは、少年が鳥屋 – 野鳥を捕まえて籠に入れて売っている – の男のところにいた時、捕まえた鳥の羽を白く塗って群れに戻すと群れから寄ってたかって攻撃されて地面に落ちて死んでしまう、そういう事象のことを言っていて、これは少年自身の外見がもたらす境遇とその行く末も暗示するわけだが、他にもこの映画で動物には結構酷いことがされていて(猫だけ例外、人の目玉を貰って遊んでいる)(動物を愛するひとは気を付けた方が..)、つまりここでの少年はそこらの名前もない犬畜生と同じで喋ることも許されず、泣き叫ぶくらいがせいぜいである、と。(だからといって虐待していい、ってことにはならないはずよね)

戦時下の惨状を無垢な子供の目を通して見た映画、というと『ブリキの太鼓』(1979)とかこないだの”Jojo Rabbit” (2019)があって、どちらの側にいる子供か、という違いはあるものの、意図としては透明な子供の目を通して戦争の残酷さをフィルターなしで伝える、というのがあるのだろうが、これってどうなのかしら? ドラマ的には、最後に少年が自分の名前を指でガラスに..  っていうところに向かうのだが、あまりにあまりな加虐と被虐の螺旋階段(下向き)にううむ、ってなった。 実際はこんなもんじゃないもっと陰惨だった、のかもしれないけど、だからといって。パワフルで有無を言わさぬ、なのかもしれないけど、こういうのって ..  ぶつぶつ言いながらぐったり。

例えば、今MUBIで見ることのできる短編 – “Szél” (1996) – “Wind”を見てほしい。1952年に撮られた1枚のモノクロ写真を膨らませたハンガリー映画だが、たった6分間のワンショット、風の音しかしないのにこれだけの恐怖と絶望を喚起することができる。

それかストルガツキー兄弟原作の『神様はつらい』(2013)が描いた虐待地獄の方がまだー。

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