9.24.2020

[film] I'm Thinking of Ending Things (2020)

 20日、日曜日の晩、Netflixで見ました。原作はIain Reidの同名小説(未読)- 邦題は『もう終わりにしよう。』..

原作がどう、というのもあるのだろうが、監督はCharlie Kaufmanで、つまり“Being John Malkovich”(1999)の “Adaptation“ (2002)の”Eternal Sunshine of the Spotless Mind” (2004)の(以上脚本)”Synecdoche, New York” (2008)の Charlie Kaufmanで、ひとこと「変なの..」で終わらせてもよくて、すごい傑作!と呼んでいいのかどうかわかんなくてつい周りの顔色を見てしまったり。でもいろいろ考えるネタとしてはおもしろいよ、くらい。

車で彼 - Jake (Jesse Plemons)の両親の家にドライブしようとしている女性(Jessie Buckley)がいて、彼の両親に会いに行くというのは重要なイベントなので彼も彼女もだいじょうぶかな、とかなかなか緊張していて、でも天気はあまりよくなくて雪嵐が来そうで、でもこれは大事なことだから、って決意は確りとあるようで、そういう道行きが彼女のナレーションとふたりの会話と共に描かれていく。時折会話が止まって気まずくなる中、Wordsworthの詩とかミュージカルの”Oklahoma!”が出てきてへー、とか、両親に会いにいくくらいの仲になっているふたりの会話としては互いに知らないこともあるみたいだしなんか変じゃない? になってくる。

彼の実家に着いてからも、吹雪ぼうぼうなのに両親は窓から手を振るばかりでなかなか降りてこなくて、手前の家畜の畜舎のところには凍死した羊が放置してあるし死んじゃった豚の痕が残っているし、具合がよくないと聞いていた母親(Toni Collette)も父親(David Thewlis)も明らかにテンションがおかしいし外見も老いたり若返ったり、最後に母親は亡くなってしまうし。彼女の目からすればそれは恐らく最悪の類の”Meet the Parents”経験か、典型的な巻き込まれ型ホラーみたいで大変だと思うのだが、Jakeの子供時代の部屋に入ってなんかわかったような気がしたり。でもとにかく、明日までに仕上げなければいけないレポートがあるので、絶対今日中には戻らなくては、ということだけははっきりしている。ので雪嵐がひどいけど戻るんだってば。 で、この戻りでもいろいろ出たり湧いたり。 どうやら目的は家に帰ること、というよりもこんなふうな状態を終わらせることにあるらしい。

これらのやりとりを通して彼女の頭のなかに”I'm Thinking of Ending Things”というフレーズが繰り返し浮かんで、彼女の名前は会話の局面ごとに変わってYvonneだったりLucyだったりLouisaだったりLuciaだったり、その声の聞こえ方も微妙にトーンを変える(レコード針を経由の時も)し、車のなかでの映り方も変わるし、仕事もウェイトレスだったり科学者だったりRalph Albert Blakelockそっくりの絵を描く画家だったり、いろいろ。あと彼女のモノローグの途中に年を取った学校の用務員(Guy Boyd)の映像が入りこんできたり、携帯には頻繁にCallが入り、掛かってくるのは女性からなのにvoice mailには野太い男の声が。(彼女はMatrixに囚われている説)

全体の仕掛けはそんなにトリッキーで段差だらけで難しいというわけではなく、行きの途中でわかっちゃうのだが、あとはJakeの「子供時代」の部屋に置いてあった本とかDVDがだいたい説明してくれる。David Foster Wallaceがあり、ゲーテの色彩論があり、Pauline Kaelがあり(彼女の評を経由して“A Woman Under the Influence”が語られ)、Guy Debordの『スペクタクルの社会』があり、Anna Kavanが語られ、”A Beautiful Mind”があり、それらがブランケットとなってJakeを作って暖めてきた、と。

”I'm Thinking of Ending Things”の”I”とは誰なのか、”Things”とはなんなのか、”Ending”は関係の終わりを指すのかなにかをやめたり捨てたりすることなのか - 「死」のことなのか。人間は動物とは違ってやってくるEndingを想うことができる。どんな物事にも終わりはあるし、くるし。そして登場人物の誰もがその終わりに抵抗しようとしていない、というのはどういうことか。

こないだの”She Dies Tomorrow” (2020)でも同じく女性の頭のなかにタイトルのフレーズが反響し、それが周囲に伝染していく様が描かれていたが、こっちが今の生にダイレクトにドスを突き立たててくるかんじだったの対し、”I'm Thinking of Ending Things”は揺り籠というかひとつのドーム、ひとつの部屋のなかでわんわんぐるぐる回っていて、しまいにはふたりでダンスまでやっちゃうの。問いに対しては「うん、そろそろね」って返したがっているような。

Jakeが彼女の実家の方に行くという設定はありえたのか、というと多分なくて、彼はどうしても両親に会って貰って、あの部屋に入って、見て貰いたかったのだと思う。それはなんでか?

Jake役のJesse Plemonsさんは”Game Night” (2018)でも同じような犬と籠りっきりの不気味な元警官を演じていた。でも本当は若いころのPhilip Seymour Hoffmanが演じるのを見たかったなー。

Jessie Buckleyさんにも歌わせてあげればよかったのに。

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