9.16.2020

[film] La Haine (1995)

11日、金曜日の夕方、BFI Southbank – 映画館で見ました。

BFI再開後の特集 – “Redefining Rebellion”の目玉はこれの4Kリストア版で、今こそ見直されるべき必見の1本、のように紹介されている。確かに”Les Misérables” (2019)を見てこれを見ると、なるほどなー、って。邦題は『憎しみ』。そのまま英訳すると”Hate”だが、こちらでのタイトルはフランス語のまま。

監督のMathieu Kassovitzは同年のカンヌでBest Directorを貰っている。リストアされたモノクロの滲んだような黒がすばらしい。

パリ近郊の低所得者向けの公営団地で警官隊と若者たちの衝突があって、若者Abdelが重傷を負って病院に運ばれ、その際に警官隊の銃が行方不明になった、その翌朝10時過ぎからぐるっとまわって次の朝まで、Abdelの友人3人 – いつもべらべら喋っているSaïd (Saïd Taghmaoui)、いつも寡黙なボクサーのHubert (Hubert Koundé)、お調子ものですぐ沸騰しがちなVinz (Vincent Cassel) - のうろつき、うだうだし、踊り、小競り合いし、やられたらやりかえしの、飢えた野良猫みたいな時間の経過をタイムスタンプ付きで追っていく。Saïdはアラブ人、Hubertは黒人、Vinzはユダヤ人で、どこに行っても誰かは誰かにとってのよそ者、異端者として目につけられて、その度にイキったり抑えたり宥めたりが大変で、ゆっくりTVでも見ていれば、なのだがそんなの耐えられないらしくどうしても街に出ていく。

Abbelが入院している病院にお見舞いに行っても警察が詰めてて入れて貰えず、そのうちAbbelの死亡が報道されると、Vinzが隠し持っていた昨晩の銃がちらちら見え隠れしてくる。

警察との衝突は日常茶飯事で、そこで溜まった鬱憤や怒りは近所でうだうだするくらいでは解消されず、なんかでっかい騒ぎを起こしたれ、って粋がるもののなんとかその手前で踏みとどまっていて、けど基本はなめんなおら、出るとこ出たろか、なの。

前の週に見た”Les Misérables”の方が、コミュニティを警備監視する側の3人(こちらも3人)の住民との衝突あれこれを緊張・摩擦の連鎖と伝播のなかで描いていたのと対照的に、こちらは監視されて囲われて動けなくなっている3人がこじれてこんがらかってうわーっ(怒)て突っ走っていく青春映画の趣が強い。始めの方でVinzが”Taxi Driver”のDe Niroのマネをするシーンがあるのだが、あんなふうになりきれない、まだギャング映画にもノワールにも映ることができないちょっと間の抜けたガキ共を描いたようなところはあるかも。 映画まわりで言うと、彼らの不満鬱憤から警察との緊張を抜いて英国の糞尿まみれの土壌にコメディとして持ちこんでみたのが”Trainspotting” (1996) – のようにも見える。

原理主義的な暴力が世界的な拡がりを見せる前夜の様子はこんなだったのかも、と。「憎しみ」が25年を経て「ああ無情」になるまで。

カメラが”Les Misérables”と同じように、建物のあいだをぐーんと抜けていくシーンがあって、あれってドローン撮影のように見えるんだけど、どうやって撮ったのかしら。

あと、Vincent Casselのちんぴらあんちゃんぶりがたまんない。


Mangrove Nine (1973)  +  The People's Account (1985)

9日、水曜日の晩、BFI Southbankの“Redefining Rebellion”の特集から、ドキュメンタリー中編2つを見た。

“Mangrove Nine”(37分)は、70年頃、Notting HillにあったMangroveっていうレストランがBlack Power activismやドラッグ取引の拠点と言いがかりつけて狙われて何度もガサ入れされて(いつもなにも出てこないのに)、その過程で警察に抵抗した9人が傷害罪で逮捕された。この裁判の過程を追いながら、司法のいろんな前提とか進め方が圧倒的に被告側に不利なシステムになっていたことを明らかにしつつ、彼らがどうやって戦って勝利したのか、を描く。

共同監督のひとりFranco Rossoはこの後に“Babylon” (1980)を撮っているの。

"The People's Account" (50分)は、ロンドンの北のTottenhamで1985年10月6日に起こったBroadwater Farm riotについての記録で、そのきっかけとなった2人の黒人女性の死 – ひとりは警察の自宅捜索中に不審死、もうひとりもその数週間前にBrixtonでの捜索中に撃たれて亡くなっている。 住民へのインタビューで明らかになる恒常的に行われていた警察によるハラスメントと捜査内容の組織的隠蔽と知らんぷりの数々。で、TV用のドキュメンタリーとして制作されたこの作品は放映直前に取りやめにされた、と。

最近のニュースでPolice brutalityとかPolice brutal forceと呼ばれている暴力の行使と社会システムに構造的に組みこまれた差別は米国に限らずずっと昔からこんなふうにあった。 ロンドンのBLMのデモに参加した時も対岸の火事じゃない感がすごくあったし、他の国もそうであろう/あったことはなんとなくわかる。 どれだけ憎悪を抱えて人を殴っても撃っても傷つけてもちっとも罰せられずに許されてしまう公的機関が幅をきかせている、という異常。 そして、でもにっぽんは違うんだもん、って言いたくてたまらない人々の一回転した異常さ。

- Redefining Rebellion. - 我々はいま、誰に何に抗うべきなのか。

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