12.22.2012

[film] 雁の寺 (1962)

7日の若尾文子 × 金子國義イベントのあと、「カメラの位置がずっと異様に低くて着物の裾がはだけるところばかり撮られていた」とか「撮影中の一カ月間毎日すっぽんばかり食べさせられた」とか、そんな若尾文子さんのコメントを聞いたら見ないわけにはいかなくなった『雁の寺』に詣でるべく、2フロア上、シネマヴェーラの川島雄三特集にはいる。

最初にやってたのが『適齢三人娘』(1951) 。
突然一方的に婚約破棄されてしまったおっとり姉(幾野道子)の仇を討ちにいった勝気な妹(津島恵子)がたまたまそこに引っ越してきたばかりの雑誌記者(若原雅夫)と知りあって、仲良くなって、姉と、カフェのおねえさん( 小林トシ子)と3人でこの男をめぐって三つ巴のごたごたになるラブコメ。

こいつ(男)、そんなに取りあうほどいいか? ていうのと、会話の調子が昔の日本映画によくある「これはこれは」とか「失敬」とか「おやおや」とか、そういうなんかくすぐったいやつで、だからラブコメというよかサザエさんの漫画みたいな気もした。

3人の女性の争い、というと洋画だと"The Women"(1939)とか"A Letter to Three Wives" (1949) なんかが思い浮かぶのだが、これらに見られるおっそろしく洒落て高次の戦いと比べると、ほんとに稚拙で、それは最近の邦画なんかずっとそうだけど、なんとかならないものかねえ、と思ったりした。


続いて『雁の寺』。 原作は水上勉。
お寺の雁の襖絵を描いた南嶽(中村鴈治郎)の死後、彼の妾だった里子(若尾文子)が寺に流されて、エロ僧慈海(三島雅夫)にやりたい放題やられてしまう話と、口べらしで貧しい寒村から修行に出された慈念(高見国一)が慈海にさんざんこきつかわれる話のふたつがあって、セクハラとパワハラの嵐が吹き荒れる近代のお寺界のありようを世間に問うた問題作なの。 たぶん。

ぶくぶくと肥えたブタ野郎慈海となんも考えずにひたすら暖かい里子と殆どしゃべらずに強く暗い目だけが生きているような慈念の三角関係は、いかにもありそうで素敵で危険で、それを切りとるモノクロの画面も四角四面でなかなかかっこよい。 肥溜めの奥から、墓場の穴から覗いている四角い枠のやつ、いったい誰なのか。 もちろん仏さまではないよね、たぶん。

ここでの若尾文子は、あらゆる欲望の涯に、まんなかに愛しか残っていないような、これはこれで異様な生もので、冷たい四角四面の世界に生きる慈念を苦しめてしまうのもようくわかるのだった。

最後に突然小沢昭一さんが現れて、このしばらく後で訃報をきいた。 おじいさん鴨だったなあ ...

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。