1.18.2024

[film] Poor Things (2023)

1月13日、土曜日の昼にPicturehouse Centralで見ました。35mmフィルムでの上映。

邦題は『哀れなるものたち』。原作はAlasdair Grayによる1992年の同名小説(未読)、監督はYorgos Lanthimos、彼の前作”The Favourite” (2018)と同じようにほんの少し昔のクラシックに凍結された時代を舞台に更にやりたい放題をやってしまったかんじ。以下、ネタばれはあります。

冒頭、思い詰めた顔の女性(Emma Stone)が高いところから飛び降りるシーンが描かれ、続けて画面は白黒になり、つぎはぎ顔のDr Godwin Baxter (Willem Dafoe)のもとでBella Baxter (Emma Stone)と名付けられた冒頭に登場したのと同じ顔の女性が屋敷のなかでばたばた騒がしくいろんなことを学んでいく様子が描かれる。 彼女の周りにはやはりつぎはぎ合成された動物たち - フレンチブル/チキンなど - が沢山いて、彼女もその実験サークルの仲間らしい。

そのうちGodwinは身の回りのあれこれを試したり覚えたりしていくにつれ日に日に奔放になり手を付けられなくなっていくBellaの面倒をみる(観察する)べく、彼の教室にいた学生Max McCandles (Ramy Youssef)を屋敷に住まわせて観察・研究させ、Bellaも彼になついてきたようだからふたり一緒になってみるか(これもまたお試し)、となったところで横から現れた法律家のDuncan Wedderburn (Mark Ruffalo)が連れ去るように彼女をもっていってしまう。

ここから画面はカラーになって、LisbonからParisへ、Duncanをへろへろにしながら性と食を貪るように吸収し、それを通して「人間」のいろんなことを学んでいって、というBellaの成長物語として(やや類型的すぎるものの)読んでいくことができる。それは飛び降り自殺によって壊された女性 – Bellaの脳は彼女が身籠っていた胎児のそれを移植された – の生がなにかを取り戻し回復していく過程のような、或いは子供から大人に成長していくBellaが少しづつ学んでいく過程のような、どっちにしてもくそのような腐った大人たちから「正しく」学ぶことを求められるこの渡世のあれで、でもBellaはその程度では負けないの。

「哀れなるものたち」って果たしてどっちの方なのか。魚眼レンズのような穴から覗かれる妙に歪んだ視界とか景色とか、調律がどこかでおかしくなっている弦とか。でも結局はセックスとお金の話なのか、とか。

ベースは誰もが知っているようであんま知らない気がする「フランケンシュタイン」の、改造されて空っぽ状態から作られた「人間」はどんなことでもできてしまうから - という怖くて哀しい被造物のお話しをゴシックロマンのようなスチームパンクのような、あの時代にありえたかもしれない痛快なお話しとしてリ・アレンジしている。昭和末期のガロなどにあったみっしり描かれたエログロ漫画みたいなかんじ - 雰囲気ね、画面は作り込まれていてすごい - がないこともないが、タイトルと画面の造りから当初想起されたような悲惨なだけの人形ホラー - “M3GAN” (2022)みたいのに持っていくこともできたかもなのに、そうはしなかった - 心配だったんだよ、だってYorgos Lanthimosだし。

最後、LondonでBellaはふたりの「創造主」と対面する。ひとりは死にかけてて、もうひとりは再び彼女を殺しにかかってくる。どっちもいらんし、っていうあの態度とおとしどころは悪くなかったかも。
とにかく覚醒してからのBella - Emma Stoneがすばらしく、これは隅から隅まで彼女の映画で、オスカーは当然とるであろう。

監督の前作“The Favourite” (2018)の Sandy Powellさんの衣装もよかったが、今回のHolly Waddingtonさんの – “Lady Macbeth” (2016)の衣装も彼女だったのか - も見事で、Barbicanで展示されているのを見た(無料)。Bellaの衣装、なんとなく羽化のイメージがあるのと、ものすごく細かく編みこまれているので驚いた。

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