1.18.2024

[film] Anatomie d'une chute (2023)

1月14日、日曜日の晩、Picturehouse Centralで見ました。

英語題は”Anatomy of a Fall”、邦題は『落下の解剖学』。監督はJustine Triet、今年のカンヌでパルムドールとパルムドッグ(犬、かわいい)を受賞している。2時間半を超えて、皮膚を裂いて組織をばらしてひたすら解剖していくだけの法廷ドラマだが、とてつもない緊張感と冬山に凍りつくように見た。(料理をしているところをずっと見ていられるのと同じように解剖もそうなのかも)

グルノーブルの山間の山荘のような家にドイツ生まれの人気作家Sandra (Sandra Hüller)とフランス人の夫Samuel (Samuel Theis)と視覚障害のある息子のDaniel (Milo Machado Graner)と盲導犬のSnoopが暮らしている。Sandraが若い女性のインタビューを受けている時、階上でSamuelが大音量でカリビアン音楽を鳴らし始めたので、タイミング悪かったかも、ってインタビューの女性は帰り、DanielはSnoopと外に散歩に出て、戻ってくるとSamuelが頭から血を流して雪の上に横たわっていて、既に亡くなっていた。

Sandraはすぐに旧友の弁護士Vincent (Swann Arlaud)を呼んで自分はやっていない、と落ち着いて言って、彼はわかった、というのだが、Samuelの頭部には単純な転落だけのものではない別の傷があり、地面に衝突する前に上から降ったと思われる血の跡もあり、彼と誰かの間で何かあったとしか思えないような。

捜査が進んで、審理は法廷の場に移って、SandraとSamuelが言い争った末にSandraがSamuelを殴って突き落とした、と疑ってかかる検察側と、窓から落ちて手前の物置にぶつかって落ちたのだとする弁護側で食いちがい、そこに精神的に不安定だったSamuelの自殺の可能性とか、バイセクシュアルであるらしいSandraのこと、Danielの障害のきっかけとなった過去の事故のこと、その事故の時の責任を巡る確執、夫婦間の会話は英語でやるのか仏語がよいのか、作家になりたくて何かを書こうとしていたSamuelのこと、などが明らかになってくると、犯罪のありよう、犯罪性のようなところをとりあえず置いて、実は互いに根底から憎みあっていたらしい夫婦の像が明らかになっていく – これが「解剖学」の醍醐味というか、解剖というのはここまで微細に深いところまで分け入っていくのかー、彼の方はもう死体なのでなにをされてもなーという残酷さも。

解剖の果てに明らかになるのって、実は「正義」や「悪」や「真実」がどう、ということよりも、あるものがあるべき(あってほしかった)姿や形からなぜ、どんなふうにズレたり歪んだりしてしまったのか、というのを示すだけでそのズレや亀裂のありようからこの辺りかも、というのを推測したり落としどころを見つけたりするのかも、って。なにが善でなにが悪なのか、なんてのもここから逆算してなんとなく言っているだけじゃないのか、とか。 解剖で皮膚の表と裏がひっくり返るかんじ、というか。

最後にそんなものがあるとは誰も思っていなくて決定的な証拠として明らかにされるテープとずっと静かにすべての審理を聞いて何かを考えている(ように見える)Danielの証言があって、そうなるかー、なのだがそれだけで終わるものでもなくて。最後までいって、あ。ってなったりするかも。

Jehnny BethさんがDanielを守って面倒をみる保護士の役で出てくるので、ファンの人は行くように。

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