6.26.2023

[film] からみ合い (1962)

6月10日、土曜日の午後、神保町シアターの特集『サスペンスな女たち―愛と欲望の事件簿』で見ました。

ポスターに並べられたタイトルの文字たちの禍々しいこと。この時代、女たちをこんな「サスペンス」に駆り立ててしまった(まちがいなく)男たちの愛と欲望のありようはどんなもんだったのか、とか。

原作は南条範夫の同名推理小説、脚色は稲垣公一、監督は小林正樹、音楽は武満徹、なのだがタイトルも含めてクレジットがない。エンディングにも。英語題は”The Inheritance”。

冒頭、ぴかぴかの富豪の格好でしゃらりと銀座を散策する岸恵子を宮口精二が掴まえて、いい暮らししておりますな、ってやらしく聞いてから過去に遡る。

ガンで余命3か月と宣告された会社社長の山村聰の3億円の遺産を巡って、子供がいない妻の渡辺美佐子に1/3がいくのは仕方ないとして、残りの2/3をどうすべきか - 自分には3人の隠し子がいるはずだから、と秘書課長の千秋実、弁護士の仲代達矢、秘書の岸惠子などに全国に散って探しだして連れてくるように指示を出すのだが、それぞれがそんな金は隠し子なんかより自分のものにしたいと企んで裏でこそこそ動くし、探し出された隠し子たちも芳村真理とか川津祐介とかろくでもないのばっかしだし、偽装なりすまし策謀合戦の果てに、死にかけの山村聰とリアル関係を持っていた岸恵子が「あなたの子がー」ってクールにぜんぶ搾りとってさらっていくお話し。

この内容ならどんでんコメディにしても嵌ったのかも知れないが、これはこれでシリアスな、戦後だったらありえたかも知れないどろどろお始末話として成立している。持っていかれた関係者たちが共謀して岸恵子を穴に落としてむしり取ろうとする復讐譚が続編になったはず。

あと、多様な小悪党たちがうろうろ立ち回るので忘れてしまいがちだけど、一番の絶対悪は山村聰だから。いまだにああいう態度のずっとぼけたじじいいるけど。


脂のしたたり (1966)

6月16日、金曜日の晩、神保町シアターの同じ特集で見ました。

原作は黒岩重吾の同名小説、監督は田中徳三。英語題は”A Drop of Grease”。 偶然だろうがこれも戦後の後始末系のはなしだった。

兜町の証券会社で調査部員をやっている田宮二郎が地味な農機メーカーの株の動きを不審に思って追っていくと謎の女 - 富士真奈美にぶつかり、その後ろから見るからに爬虫類でおっかなそうな成田三樹夫とか、見るからにヤクザのヤバそうな連中が代わる代わる現れて、この件には関わるなって脅されたり殴られたり、それでもかつての恋人久保菜穂子のいまの恋人で情報屋の鈴木瑞穂から連中の農機メーカーを隠れ蓑にしたアジアへの武器輸出の陰謀を引き出したところで、二人ともあっさり殺されてしまったので後に引けなくなる。

富士真奈美の正体と彼女の動機が見えたらそれがほぼ全てなのだが、関わるな、って言われた最初の時点で手を引いておけばこんなことには… の典型で、ではファム・ファタールものかっていうと、田宮二郎と富士真奈美はそんなに深い仲になってもいるように見えなくて、田宮二郎ひとりが異様に執念燃やして過剰にかき混ぜすぎて止められなくしてしまった果ての騒ぎで、あれだけ人が死んでるのにもうふつうの株屋には戻れないわよねえー。 田宮二郎のあの行動をドライブしていたのはなんだったのか? 正義感ではなさそうだし金にも執着なさそうだし、人間関係はドライだし、そういう見えない読めない動物ぽさみたいのを固めたのが田宮二郎だったのか。こうしてしたたった脂は誰のものだったのかしらん?

あと、登場人物たち、いつも同じホテルとかバーとかの隅とか暗がりに固まったり向かいあったりしすぎて、あれじゃなんか企んでいるのばればれではないか。もうちょっと見えにくいところで脂はしたたらせるべき。

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