1.22.2023

[film] She Said (2022)

1月13日、金曜日の晩、109シネマズ二子玉川で見ました。

邦題は『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』。
原作本がそうだから、かも知れないが、この邦題は明らかにおかしいところがある。まず、「その名」は登場人物の間では最初から明らか – 「ハーベイ・ワインスタイン」であること、映画で暴かれるのは彼の名ではなくて彼をとりまいて事件を不可視にしていた「システム」であること、映画の主人公は暴こうとした女性記者2名なのだが、中心にいて強調されるべきは勇気ある告発をした”SHE”(ひとりひとり)- 「彼女が言った」- であること、などなど。ぐじゃぐじゃ言ってんじゃねーよ、かも知れないけど、ここをスキャンダラスな人目を惹くタイトルにすることで見えにくくなってしまうものがある。事態の本質に関わることだと思うから。

2019年に出たJodi KantorとMegan Twohey - ふたりの記者による同名ノンフィクション本が原作。

冒頭、アイルランドの海辺を散策している女性が映画撮影をしている現場にぶつかって、誘われたのかその現場で楽しく一緒に働くようになる。と、次のシーンは都会で、乱れた髪と服でこちらに向かって懸命に走ってくる彼女がいる。

明記はされないものの彼女が発端のひとりとなるRose McGowanで、彼女がHarvey Weinsteinから受けた性被害のことをJodi Kantor (Zoe Kazan)に相談する。その前段として2016年の大統領選時にトランプに対するセクハラの訴えが簡単に捻り潰された事実(あったあった)が描かれ、今回の件も余程うまく調べて固めてやらないと同様の「やってねえよ、証拠は?」で終わってしまうかに見えた。

でも周辺を探っていくと彼の悪業は業界の人間ならみんな知っていること、数もひとつやふたつではないことが見えてきて、なのになぜ表沙汰にならないかと言うと、被害者側が言ってもしょうがない状態にされてしまうのと、加害者側から実際に言えないように縛られてしまうのと、そんな構造的な問題が見えてきて、これをどうにかするには、説得しうるに足る具体的な数と名前を集めること、蓋をする仕掛け(があること)を明らかにすること、これらをでっかいスピーカーでわめき散らすしかない。

こうしてNY Times内にチームが作られ、JodiはMegan Twohey (Carey Mulligan)と組んで一緒にいろんな声を集めてまわることになって、彼女たちは自分たちの家庭や子供たち、産後鬱などをなんとかやりくりしながら、被害者の声を、Weinsteinの会社で財務や法務を見ていた連中から数字などを引き出していく - これが物語の殆ど - 簡単そうに見えていかに難しく個々の苦痛を伴うものであったか - で、その結果は2017年10月5日に記事として世に出た後、リアルに世界を変えた - と思う(個人の体感比)。

暴かれた事実は悲惨なもので、それをなかったことにしようとする手法は醜悪かつ鉄板で、でもその一式と一族郎党(システム)をなんとか表に引っ張りだそうとする彼女たちの意地と執念は(本人不在だからって夫の方に聞くのはひどいと思ったけど)やっぱりすごいので、そこを見るべし、なのと、彼女たちの上司のRebecca Corbett (Patricia Clarkson) - ひとり最終稿をチェックする、その穏やかな殺気 - や英国側の証人役で出てくるSamantha Mortonとか、ひたすらかっこいい女性映画になっていると思う。

他方で、やはりWeinsteinとその周辺の下衆で変態でどうしようもないかんじは十分に匂ってきて、そこは本を読め、なのかもしれないし、もう牢屋に入って出れなくなってるからいい、かも知れないけど、90年代にはあれだけにぎにぎ彼を持ち上げてバンザイしてきた業界の体質と責任 - あれはなんだったのか - を関係者の顔を出してきちんと掘り下げてほしかった。映画のなかで被害者からも指摘されるが、NY Timesだってそこに含まれていたし、亡霊はまだそこらじゅうにうようよしているはず。

被害の現場の重くて出口なしのホラーなかんじについては、小品だけど”The Assistant” (2019)ていう映画があって、日本でも公開されてほしい。

そして、やはり日本のことを考えてしまう。
直接の関係はないかも知れないが、ここ数年でコンプライアンス(含.自主規制)ホットラインや研修が用意されて整備されて、懲戒案件の数もずいぶん増えて、よくなったふうに見える。けどこれって風紀委員の数が増えて校則が厳しくなってそれに従っている(にっぽん人)、それだけのことで、仕事の厳しさは業後の呑みで解消とか、会社の上やクライアントばんざい主義の意識や体質を変えないとどうしようもなくて、これは(これも)虐めのサークルとかチェーンとなってお役所、メディアに学校、家庭まできれいに繋がり沁みわたっている。こんなの代理店や教育でどうなるもんでもないので、わたしはとっととこの国をでたい(えんえん)。

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