1.10.2023

[film] Benediction (2021)

12月30日の午後、(久々の)BFI Playerで見ました。

作・監督はTerence Davies、英国のwar poet - 第一次大戦に従軍してその経験を元に詩を書いた詩人/そんな簡単なものではないと思うけど - として知られるSiegfried Sassoon (1886-1967)の評伝ドラマ。彼の生涯を時系列で追っていく、というよりは彼の詩や彼の周りにあった当時の文化 – 更にずっと彼の意識の裏を覆っていた戦場の悲惨 - を散りばめながら、若い頃と老いた頃を自在に交錯させて彼の「詩」のありようを掘り起こそうとする。

Terence Daviesの人物や家族、時代を切り取って像を形作るやりかた – “Distant Voices, Still Lives” (1988) - 『遠い声、静かな暮らし』などで描かれた「暮らし」がこちらはまったく存じないはずなのにそこにありありと見えるかんじ - が冴えわたっていて、この時代や本人のこと、彼の作品をよく知らなくてものめり込んで見ることができる。そういえば、前作”A Quiet Passion” (2016)のEmily Dickinsonもそうか。(と思いつつ、彼らの詩の内容を追って参照しながら見ることができたらなー、とは思う。後からでも)

冒頭、ロンドンのシアターでディアギレフ・バレエがストラヴィンスキーの『春の祭典』を客席から見ようとしているSiegfried Sassoon (Jack Lowden - 老いてからはPeter Capaldi)の一家がいて、彼の頭の中ではあの旋律が戦場の悲惨な光景に置き換わって脳裏に投影されていく。(ディアギレフ・バレエのロンドン公演が1911年だったとすると、Siegfried Sassoonはまだ従軍していないのだが..)

最初の従軍後に詩を発表して話題となった後、前線への復帰を拒否したら精神病院送りとなり、そこで出会った詩人Wilfred Owen (1893-1918) (Matthew Tennyson)と親交を深めるが彼はそこを出て前線に復帰したまま還らぬひととなって、その別れ - 彼をそのまま行かせて留めておけなかったこと - が生涯Sassoonの傷となる。

戦争が終わって病院を出た後は、戦後の好況に沸く - Bright Young Thingsの頃 – の若くいけいけな英国貴族社交界のど真ん中で、Oscar Wildeの傍らにいたRobbie Ross (Simon Russell Beale)を経由してホモセクシュアルの詩人としてIvor Novello (Jeremy Irvine)やStephen Tennant (Calam Lynch – 老いてからはAnton Lesser)と関係を持ったり、Edith Sitwell (Lia Williams)ともなんかあったり、そろそろ落ち着いたらどうか、って妻としてHester Gatty (Kate Phillips - 老いてからはGemma Jones)と一緒になったり、でもどれだけ愛や美や人を求めて替えていって彷徨っても、そういうことを許される恵まれた境遇にあっても、戦場の地獄絵図が繰り返しやってきて彼を苦しめる。

彼を苦しめていたのが具体的にどんなものだったのか、直截に語られることはなくて、でもそこにあったと思われる罪の意識も最後まで消えることはなくて、それはSassoonが若いJack Lowdenから老境のPeter Capaldiに移っても(両者の顔は頻繁にスイッチする)ずっと続いていく。 ”Benediction”というのはカトリックの聖餐式とか、宗教的な礼拝の最後の祈りのことなのだが、それは当時の「社交」とか各貴族たちのありようと生々しく繋がっていた同性間異性間の好き勝手な肉体関係などがどうなってどうした、とは離れたところでずっと捧げもののようにしてあって、唱えられていた。戦争というのはそうせざるを得ないくらい野蛮で残忍で、数篇の詩をふりかけたくらいでいったい何になるのか? っていうのと、でも他になにができるのか、っていう問いが。

もう3年も前になる(のか..)けど、ロンドンのNational Portrait Gallery で”Cecil Beaton’s Bright Young Things”という展示があって、2020年の3月12日にオープンして17日にCovid-19のロックダウンで(ほんの5日で)閉じてそれきりになってしまった - 展示構成やインスタレーションがCecil Beatonのスクラップブックそのもののようになっていて凝っていたのにしみじみ勿体なかった – やつがあって、そこにはStephen TennantやEdith Sitwellの肖像は勿論、Evelyn WaughやDaphne Du Maurierと並んでSassoonのもあった(あと、BeatonがHester Gattyを撮った肖像は有名)。この映画にCecil Beatonが出てきてもおかしくなかったのに、と思いつつあの煌びやかな展示の裏側にはこの映画のような闇が幾重にもあったのだろうな、って。

あとはJack Lowdenのぱりっと漲った物腰、落ち着きのすばらしいことときたら。彼を代表する一本となるであろう。昔だったらRupert Everettあたりがやったような役どころを見事に。

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